今回は20代のソフト会社社長と、mixiで1年間に400人くらいの人と出会った20代のエンジニアの2人に対するインタビューをお届けする。

不利さを糧に世界目指す---星野 厚 ニューフォレスター代表取締役社長

エンジニアが恵まれない国」と言われて久しい日本。そんななかで「無いなら作る」「不利な条件を逆に生かす」とエンジニア魂に回帰にする20代のソフト会社社長が筑波研究学園都市にいる。目指すは大きく世界市場だ。

 iPhone向けのDJアプリケーション「IPJ」をこの秋にも販売開始します。アップルのソフト製品配信サービス「App Store」を経由して世界に販売する計画です。

 よく言われることですが、パッケージソフト分野で利益を上げていくのであれば、今後は世界市場に打って出るしかありません。といって、いきなり既存のPCソフトで勝ち抜くなどということは難しい。そこで目をつけたのが、iPhone向けのソフト製品でした。iPhoneはまだアーリーステージのプラットフォーム。私たちのように小さい会社でもまだ参入の余地は十分にあります。それに、多少ニッチな製品でも世界市場で考えればパイは大きい。

星野 厚 氏
写真=後藤 究

 IPJは2台のiPhoneを使って、音楽ファイルを切れ目なく演奏できるソフトです。iPhoneの特徴であるタッチパッドを生かして、本物のDJ機器と同じように、「スクラッチ」(回転中のレコードを擦る操作)などを再現しました。iPhoneならではの加速度センサーを使った操作も可能です。

 2005年に筑波大の支援制度を使ってニューフォレスターを立ち上げました。インターネットのライブ放送など、映像や音声に特化したソフト製品を開発・販売しています。当社は今年で3期が終わりましたが、おかげさまでずっと増収です。少額ですが利益も出せています。ニーズをくんでしっかり作れば製品は売れます。

 いずれの製品も、単純な発想からです。「無いなら作る」「ユーザーに使ってもらえるものを作る」です。

 「無いなら作る」という姿勢は筑波大の学部生時代からのものです。私の周囲にいる技術系の学生だと「無い」となると「じゃあ作ろうか」という話になるんですね。筑波は田舎だからなのか、「買ってくるより作ったほうが面倒がない」という発想になる。そもそも自分たちのニーズにあったものが作れますし。

 確かに、情報や機会がたくさんある東京の学生やエンジニアに比べると、不利な条件が目立つかもしれません。でも、それが必要なことだと思っています。有利さや便利さばかりを追いかけていると、結局安易に収まってしまいます。iPhone向けソフトに乗り出す背景には、こうした考えも影響しているかもしれません。

 幸いにして拠点にしている筑波は人材に恵まれています。筑波大は(「Ruby」を開発したまつもとゆきひろ氏や「ソフトイーサ」の開発者である登大遊氏など)優秀なソフト技術者を輩出してきた土壌があります。実際、学内には腕の立つプログラマがたくさんいて、刺激を受けます。

 トレンドは常に見つつも、離れたところに身を置いて、技術を磨いておく。その程度が、良い製品を開発するにはちょうどいいと思っています。

星野 厚 氏
ニューフォレスター代表取締役社長
1999年筑波大学第三学群工学基礎学類入学。2002年と03年にIPAの未踏ソフトウェア創造事業の採択を受ける。同大学院修士課程に在学中の05年にニューフォレスターを設立。1979年11月22日生まれの28歳。

(高下 義弘=日経コンピュータ