今月の「夕張希望の杜」(2008年10月)■10月3日 11月から夕張医療センターに新たな医師が1人増える予定です。また来年からもう1人赴任を希望している医師もいて嬉しい限りです。 はっきり言って周囲と比べますと十分な給与が払えるわけではないのですが、新たな仕組みを作ったり、今までの自分の経験を生かしたり、町づくりといった視点で医療と取り組んだりといったことに価値観を見出してくれる医師がいるのは嬉しい限りです。 このような志を持つ先生が疲弊しないで仕事を続けていけるような環境を作り、システムとして継続性を持たせることが大切なのだと改めて思います。 4人体制になったら、今まで十分にできていなかった医師の研修をできるようにしたり、余裕ができた時間は医師不足に悩む他の地域の支援に行こうかと思っています。 そんな中、早速夕張から比較的近い地域から医師派遣の依頼がありました。この地域は比較的恵まれていて、1人の先生が献身的に働き医師も確保して3人体制で24時間町の医療を守り、年間1000件以上の時間外の患者さんを受け入れているような地域です。 しかし残念なことに3人体制を維持することが困難で、大学の医師派遣等で何とか医療を確保してきた地域です。このような地域には夕張方式による医療再生が最も良いと思っています。 夕張方式というのは、「一度医療崩壊してもらい行政の責任で医療を確保し、医師には本来の仕事に専念してもらい、住民も医療資源が限られていることを認識して大切に使い、自分たちも健康作りに取り組み医師のやりがいを確保し、医師が働きやすい環境を作る」方法です。 厚生労働省の当直規定では、医師の当直は週1回と決まっていて、当直は本来入院患者さんを守るためのものであって、軽症のコンビニ受診を受けるためにあるのではありません。 せっかく自分の生活を犠牲にして働く医師が頑張っているのに、そのことを認識しないで医療機関を使っている地域から医師が去っていくのは当たり前だと思います。 日本の医師数はOECD加盟国30カ国中27位と医師が少ない国で、さらに医療関係の予算を削減している国です。 そんな中で個人の善意に甘えて医療資源を無駄遣いしているから地域で働く医師がいなくなっていきます。 まさに破綻前の夕張と同じ状態です。 悲しいのはやる気があり、頑張っている人を疲弊させて北海道から立ち去らせていることです。一度離れた医師は二度と地域には戻りませんし、その情報は医師の間で広がります。 そうすると住民は「国が悪い」「制度が悪い」「命にかかわる」といって大騒ぎし、マスコミもそれを強調します。 医師には人権はないのでしょうか? いい加減にこのような無駄で実りのないやり方は夕張で終わりにしてもらいたいと思います。 医師が働きたいと思うような環境作りをできない地域では医療機関は維持できないと思います。 「誰かが何とかしてくれる」という住民が多い地域は破綻するということを夕張が示しているのではないでしょうか? そんな訳で私たちの医師派遣は、「行政が安全保障の責任を医師に丸投げにしないで真剣に取り組み、住民が医療機関を大切にする」地域にしようと思っています。 せっかく北海道の地域のために来てくれる大切な医師を、無責任な人たちのために疲弊させるわけにはいきません。 とりあえず何とかなると、永遠にその地域は真剣に考えないですし、破綻した夕張でさえ未だに破綻前の悲惨な状況を求めている人たちがいるのを見ると、北海道の駄目さを感じてしまいます。 ■10月10日 私は日頃から地域医療において住民の健康を守るための主役は医師ではなく保健師であるべきであると言っています。 その理由は
実際、瀬棚町(現・せたな町)で実践してきた地域包括ケアも、人口2700人に対して保健師が5人いたからできたと思っています。 多くの自治体では「人件費がかかるから」という理由だけで少ない人数しか確保されません。これは目先の人件費しか見ていないからだと思います。 保健師が活躍して重症者を出さないような活動をしたり、高齢者の介護予防をすることで十分に元が取れるばかりではなく、地域全体の医療費を削減することや労働力を確保することができます。 特に高齢化が進んだ地域になれば、よりその傾向が強くなると思います。 「医師がいればいい」という発想はとても短絡的で、そのような自治体は大体医療費が高くて、医師への負担が多くて医師が確保できない場合が多いと思います。 一例を挙げますと、糖尿病の方に保健師がかかわることで透析患者を数名出さないで済めば一千万円以上の医療費を削減できますから人件費も元が取れます。 医師がいくら頑張っても、なかなか自宅まで行ってきめ細かい生活指導まではできません。糖尿病の治療の基本はあくまでも食事と運動ですから、どんなに良い薬を使ったり検査をしても限界があります。 むしろ「病院にかかっているから」といって患者さんが治療を医師任せにして食事や運動をいい加減にすることで血糖のコントロールが悪くて悪化するケースが夕張ではたくさんありました。 そんな保健師さんですが、現実には多くの地域では医療人ではなくて、ただの駄目な役人になってしまっています。 元々保健師さんという資格は看護師さんがさらに勉強して取る資格ですが、下手をすると看護師さんとしての実務経験が少なく医療人としては不十分で、現場は知らないけどプライドだけは高いただの役人になってしまいます。 先日北海道薬科大学の古田教授が夕張市に高齢者に対するインフルエンザの集団予防接種を提案していました。予想通り夕張市は接種率が低く、それに何ら対策もなく保健活動に対する無知・無理解が良く分かります。 「スケジュールを調整して医師は出すから、それ以外のコーディネイトをやってみませんか?」と随分頑張って提案していましたが、「注射器に薬液を詰めるのは保健師の仕事ではない」「やったことが無いから」と拒否されたそうです。 この発想ではおそらく永遠に破綻する状態から進歩はないと思います。ただ単に仕事を増やされるのが嫌だということがよく理解できます。こんな人たちは辞めていただいた方が地域のためだと思います。 せっかく日頃から保健師さんという職業を尊敬し、応援したい私ですが、さすがにこの地域ではそれ以前の問題のようです。 「だから破綻した」と言ってしまえばそれまでですが、一日も早く自分たちのことばかりではなくて、ここの高齢者の生活のことも考えてもらいたいと思います。 ■10月17日 先週末も相変わらず慌ただしいスケジュールでした。 土曜日に北海道地域医療研究会の定期研究会があり、役員でもある私は午前中に札幌へ移動して出席しました。 研究会では北海道の地域医療では比較的先進的で有名な奈井江町という町で地域医療に取り組んでおられる方波見(かたばみ)先生に直接お会いして講演を聞くことができました。 この先生は著書も多く、講演等も随分精力的に取り組んでいる姿を見ると年齢を聞いてびっくりするような先生です。 地域で開業されて先生が3代目になり、すでに4代目の先生も地域医療に取り組んでおられます。講演の内容は今までの先生の取り組みや医師としての理念等実に分かりやすく、久しぶりに感動する講演でした。 そんな中で印象に残ったのが、医師は公人であり、公的機関であろうと民間であろうと立場が違うだけで取り組むことは地域の安全保障なのだから同じであるといったスタンスで、将来を考え、積極的に行政ともかかわり町づくりに取り組んでいる姿勢でした。 講演前に個人的に話をする時間もあり、年代は随分違うのに時代の変化を敏感にとらえて冷静に分析していて、自分たちと同じような視点で地域にかかわっていることには正直驚きました。後半は私が憧れていた長野県の若月先生の話で盛り上がっていました。 スケジュールの関係で研究会の途中で退席して、新千歳空港から飛行機で岐阜へ向かい、翌日、日本遠隔医療学会に出席しました。 市民公開講座で講演させていただき、そこで「ドクター・コト―診療所」の作者である山田先生とお会いすることができました。 この先生は漫画家ですが、乳癌の予防や早期発見キャンペーンにも精力的に取り組んでいることを知り、ステージ裏でしばし予防医療について熱く語っていました。 夜には岐阜で地域医療に取り組んでいる先生方と話をしたり、私が研修医時代に指導して下さった先生方にも久しぶりに会うことができました。 今日は沖縄から救急医療に取り組む医師が見学に来ていました。どこの地域も医療を維持していくことが大変で、行政の不作為や住民意識の変化が医療を崩壊させている現状には変わりはありません。 医師だけが頑張っても医療は維持できないのはどこの地域でも共通していると思えました。長距離の出張は大変ですが、北海道の外に出てみると随分視野が広がるように思います。 夕張の問題は夕張の中だけで解決するのではなく、他の地域で既に行われていることを参考にするだけでも随分解決できることがあります。 最近の夕張市では数名の市民が作った温泉に関する地方新聞によるやらせ報道があり、自然や環境を生かして夕張市を楽しむ一部の市民の行動をテレビ局も参加して壊してしまう出来事がありました。 十分な取材もない夕張市にとっては何一つ利益にならない報道で、夕張市の一番の宝である歴史や環境を生かした取り組みや行動が妨害されるのは実に悲しいことです。 夕張に来てからその記者の方に「うちの取材以外受けないでほしい」と言われて断ったことがありましたが、視野の狭い意図的な報道や破綻して悲惨な現状ばかり伝えようとするのはもういい加減にして、自ら頑張っている市民による明るい兆しに注目してもらいたいものです。
>>■10月24日
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