IPv4アドレスが2011年になくなると言われている。これまでもIPv4アドレスの枯渇を訴える声が何回か上がったが,そうはならなかった。しかし,今回は深刻のようである。枯渇する根拠や枯渇したときに生じる問題,それから対応策などをIPv6普及・高度化推進協議会の荒野 高志氏に聞いた。

(聞き手は,高橋 健太郎=日経コミュニケーション)

かつて何度か「IPv4アドレスがなくなる」と言われてきました。今回の枯渇状況は過去と比べるとどうなのでしょうか

 確かに,何度か足りないという状況がありました。

 最初に足りないと言われたのは1990年代です。当時はアドレスの割り当て単位が今より大雑把でした。アドレス管理団体は,「クラスA」(アドレス約1700万個分)とか「クラスB」(アドレス約6万6000個分)という単位でアドレスを配っていました。そういう大きな単位で割り当てていくと,あっという間になくなってしまうわけです。そのころは,IPv4アドレスの枯渇時期が2005年と言われていました。

 1990年代のときにIPv4アドレス枯渇対策として三つの手段が考えだされました。一つは「NAT」(network address translation)です。本当に必要なところだけにグローバル・アドレスを使って,それ以外のところにはプライベート・アドレスを使うのです。もう一つは,「CIDR」(classless inter-domain routing)という仕組みです。これは,アドレスの割り当て方をもっと細切れにして,効率よく配ろうというものです。そして三つ目は,新しいプロトコル,IPv6です。この三つのうち,最初の二つでしばらくはしのげるようになりました。

写真1●IPv6普及・高度化推進協議会 常務理事 インテック・ネットコア代表取締役社長 荒野 高志氏
写真1●IPv6普及・高度化推進協議会 常務理事 インテック・ネットコア代表取締役社長 荒野 高志氏
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 次に,2000年ごろに再び危険だと言われ始めました。このころはバブルのような状況になって,アドレスの消費がぐっと増えたのです。「それが続くとどうなるか」と予測した人が何人かいました。その結果,2006年には枯渇するという説になったんです。

 ただ,これは公式な説というわけではなく,もしかしたらなくなるかもしれないからIPv6にしたほうがよいのでは,という主張です。このときには私も悪かったのかもしれません。そのときには,純粋に使用量が急増したので,それを延長するとその時期に枯渇するという話だったんです。その後アドレス消費はいったん落ち着きました。

 2003~2004年ごろ,APNICのジェフ・ヒューストン氏がIPv4アドレス消費の算出モデルを作りました。そのときの予測ではIPv4アドレス枯渇の時期は2020年とか2021年というものでした。ところが,2005年にアドレス消費が急増し「あれっ」となったわけです。その消費量を見てヒューストン氏も予測を見直しました。すると,2007年時点の予測では2011年ぐらいということになったわけです。

 昔と今回と何が違うのかといいますと,算出モデルの精度自体も上がっていますが,本当にIPアドレスの残りが少なくなって,自然と予測精度が上がってきたというわけなんです。

 もっと直感的に話しましょう。IANAがアドレスを配る単位は「/8」(アドレス約1700万個分)です。これがもう残り39個しかありません(注:インタビュー後にAfriNICに1個,APNICに3個割り当てられたため,11月時点で残りは36個に減っている)。そして,2004年から毎年,年に10個以上消費しています。これで何年持ちますか,ということなんです。

そうするとあと3年ぐらいでなくなってしまうということですね

 そうなんですよ。

 アドレス枯渇には,もう一つ重要なファクターがあります。今,最後に残ったアドレスの割り当て方が議論されています。/8が最後の5個になったら,各地域のRIR(地域インターネットレジストリ。アジア太平洋地域のAPNIC,欧州のRIPE NCC,北米のARIN,南米カリブ海地域のLACNIC,アフリカのAfriNIC)に1個ずつ配りましょう,というルールができつつあります。これにはいろいろな意味があります。例えば,まだISPが少ないような地域では,そういう事業のために取っておく必要があります。

 今IPアドレスの消費量が多いのはアジアです。実質的には,アドレス割り当ての半分近くがアジアで占められている状況です。ですから,最後の5個が配られた時点で日本のISPには回ってこないでしょう。アフリカや中南米には,まだ回っていくかもしれません。

 アジア太平洋地域では,さらに最後に配られた/8の使い方が議論されています。有力な案は,/22(約1000個)という細切れの状態にして,それを1個ずつ割り当てるという方法です。

 これは,ISPの規模にかかわらず,例えば,トランスレータ(注:IPv6アドレスとIPv4アドレスを変換するNAT装置)などを置くために必要なアドレスを全事業者に割り当てるといった目的に使います。また,新規に立ち上げるISPのために少し残しておきましょう,というものです。

 そうなると,国内の大手ISPは,/8が最後の5個になった段階で実質的にアドレスがもらえなくなります。今,2011年と言っていますが,これは控えめにいって2011年ということで,それよりもちょっと早いかもしれないという状況にあります。

そうすると,v6の備えというか,準備のためにちょっと残っているだけで,新しい割り当てはもうないと考えた方がよいのですね

 そうですね。最後の/8に関しては,その通りです。