伊勢丹が目指したのは,これまで構内PHSで実現してきたのと同様のモバイル/内線環境を,管理の手間を軽減しつつ新システムに置き換えることである。同社が選んだのはNTTドコモのOFFICEED。構内にNTTドコモの基地局設備を設置・利用することで構内の通話が定額扱いになる。

 まず2007年12月に新宿地区の4拠点に導入。現在は1000台以上の端末を利用している。構内に配備する基地局設備の運用を事業者にまかせることで,管理の手間と導入コストを大幅に削減できた(図1)。

図1●自社で設備を極力持たず,導入コストを抑える<br>伊勢丹はNTTドコモのOFFICEEDを採用。もともとドコモの基地局設備が店舗内に入っていたこともあり,構内PHSよりも大幅にコストを抑えて導入できた。
図1●自社で設備を極力持たず,導入コストを抑える
伊勢丹はNTTドコモのOFFICEEDを採用。もともとドコモの基地局設備が店舗内に入っていたこともあり,構内PHSよりも大幅にコストを抑えて導入できた。
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 同社は従来,店舗やオフィス・ビル内に構内PHSを導入し,内線電話と外線発信用に利用していた。しかし2008年1月にNTTドコモのPHSサービスが終了することになったため,同サービスを利用していた伊勢丹は,別のシステムへの切り替えを迫られた。

 考えた電話システムの条件は,従来と同様,社内ではPBXと連携する内線電話で,社外ではモバイルとして活用できるサービスだ。「社員は店舗やオフィス内を移動していることが多い。顧客からの問い合わせなどに迅速に対応するためには,どこにいてもすぐに内線でつながる電話システムが必須だった」(伊勢丹ビルマネジメントサービスの口野広隆事業本部クリエイト担当課長)。

 こうして候補に挙がったのはNTTドコモのOFFICEEDと,FOMA/無線LANデュアル端末を利用するPASSAGE DUPLE,ウィルコムのPHSを使った構内PHSである。このうちPASSAGE DUPLEは,「無線LANを使ってPOSシステムを構築しているため,干渉の問題があり,候補から外れた」(口野課長)。

 OFFICEEDとPHSの比較の際に,選択の決め手となったのは設備や管理をアウトソースできる点だった。「構内PHSは自前でインフラを整備しなければならない。これに対してOFFICEEDは,基地局設備をドコモが設営・管理してくれる。それ以前から店舗内にドコモの基地局設備が入っていたこともありOFFICEEDを選択した」(口野課長)。

 実際に導入コストも抑えられた。「構内PHSと比べても大幅に安かった。PBXは既存の資産のまま。端末をドコモのPHSから携帯電話へ無償移行できた点も効いている」(同)。

電話システムを事業者に頼ることに不安も

 横浜のショッピングモールであるクイーンズスクエア横浜は,構内PHSの老朽化に伴ってトラブルが頻発したことから,システムを再構築した。選んだのは伊勢丹と同じNTTドコモのOFFICEEDである。地上28階,地下5階のフロアに457の基地局を配備し,78台の端末を利用。以前と同じ内線システムの使い勝手を継承しつつ,管理コストも軽減した。

 その半面で,クイーンズスクエア横浜の施設を管理する横浜シティ・マネジメントの町清二顧問は,「電話システムの大部分を事業者に任せることに一抹の不安がある」という。事業者がサービスの方針を変更したら,大きな影響を受けてしまうからだ。

 OFFICEEDは,既にドコモの基地局設備が入っている企業にとっては魅力的な選択肢だろう。ドコモによると7000以上のオフィス・ビルや施設に同社の構内基地局設備を配備済みといい,このような場所からOFFICEEDの導入を進めているという。その他の場所では基地局設備から導入しなければならないため,手間やコストが上乗せされる。ただドコモによると将来的にはフェムトセルを活用し,より簡単にシステムを構築できるサービスを検討しているという。

 伊勢丹とクイーンズスクエア横浜の両社がOFFICEEDを選んだもう一つの理由は,電話の使い方にある。例えばクイーンズスクエア横浜は,エリア内の内線用途がほとんどという。オフィス内での内線が中心になると,ローカルのPBXと連携した方が転送など内線電話としての利便性は上がる。