維持コストの削減や機能強化といった共同化の果実を得るため、各地銀は共同化におけるリスクをどう克服してきたのか。ここからは共同化の苦労と工夫を紹介しよう。

 最大の苦労は、要件をまとめるのに手間がかかること。福岡銀行の廣田喜大執行役員IT統括部長は「単独よりも時間がかかるのは事実」と認める。

 共同化陣営における標準的な案件のまとめ方は、半年単位で開発計画を話し合うのが一般的である。各行からIT担当者、IT部門長などがそれぞれ参加する会議体を設け、各行のニーズを持ち寄り議論する。具体的な検討会議とは別に、IT担当役員や経営トップが顔を合わせる会議体もある。こうした会議体が必要な分だけ単独利用よりもオーバーヘッドが生じる。

 議論するだけで話がまとまるなら苦労はしない。地銀は地域密着型のビジネス展開が不可欠。「地域によってサービスのニーズは異なり、システム化の優先順位も違う」。各行のIT関係者は、こう声をそろえる。広島銀と2行で進める福岡銀でさえ、「要件をまとめるのに苦労している」(廣田執行役員)。5行、10行となればなおさらだ。

調整役として「幹事行」を任命

 では、各陣営はどのような対策を講じているのか。13行が集まる最大陣営の地銀共同センターでは、3行の「幹事行」を持ち回りで決めている。幹事行は事前や事後の案件調整、開発を担当するNTTデータとの調整などを担う。少数行が調整役に回ることで意思決定を早める。意見が偏らないよう幹事行の選び方も工夫している。現在の幹事行は、第1号ユーザーの京都銀、移行直後の愛知銀、移行準備中の福井銀。あえて立場の異なる銀行をそろえた。

 地銀共同センターが参加行間の意見調整を重視する「合議型」なのに対し、7行が集う「じゅうだん会」は「主導型」を採る。中心となる八十二銀が参加行からIT部門や利用部門に出向者を受け入れる。企画部じゅうだん会共同版企画室の中村誠室長は「八十二銀の仕事の進め方や問題意識から理解してもらうのが狙いだ」と説明する。

 主導型といっても、システム化案件を一方的に提示するだけでは、ほかの参加行が「どういう意味があるのか」「うちには不要だ」と不満を持ってしまう。案件を提示してから説明していたのでは時間もかかる。そこで、利用部門からIT部門に要件が上がってくる前に、利用部門におけるシステム化のニーズや問題意識を参加行と共有しようという目論見だ。経緯がわかっていれば納得しやすい。

 八十二銀は、行内の戦略案件の検討状況や投資計画、経営会議の議事録なども出向者を通じて参加行に隠さず公開する。中村室長は、「ここまでして初めて、参加行との信頼関係が生まれる」と語る。