インターネットでは,世界中のマシンを識別するために個々のマシンにIPアドレスを割り当てている。そのIPアドレスが「なくなる」日が迫っている。
残り2割を切った!
現在のインターネットで使われているIPのバージョンは,「IPv4」。IPv4アドレスの長さは32ビットである。8ビット単位で区切り,「192.168.0.1」といった形式で表現する。単純に計算すると,2の32乗,約43億個のアドレスがある。特殊な用途のものを除き,実際にインターネット上のアドレスとして使える数を計算すると37億個程度になる。
パソコンに割り振られるIPv4アドレスは,インターネットで使う「グローバル・アドレス」と,自営ネットワーク内専用の「プライベート・アドレス」に分けられる。グローバル・アドレスは,世界中に重複することなく割り振られる。プライベート・アドレスは,割り振りを受けずに使えるアドレスで,あらかじめ範囲が指定されている。今では,企業ネットや家庭内ネットといった自営ネットワーク内のパソコンには,プライベート・アドレスを使うのが原則だ。
プライベート・アドレスは,企業ネットや家庭内ネット内に閉じて使う。このため,異なるネットワークで繰り返し利用できる。不足することはない。一方グローバル・アドレスは,インターネットに新たにネットワークをつないだり,ルーターを増設したり,個人ユーザーを収容したりするたびに残りが減っていく。
グローバル・アドレスは,IPアドレスを管理する国際機関であるICANNから,アジア太平洋,欧州,北米など地域ごとにある地域インターネット・レジストリ(RIR)に割り当てられ,そこからインターネット接続事業者(プロバイダ)を経由して企業ネットや個人ユーザーに割り振られる。ICANN は,先頭8ビットが固定で後ろ24ビットが自由に変えられる「/8」というアドレス・ブロック単位でIPv4アドレスをRIRに割り当てている。「/8」のアドレス・ブロックの残りは,2008年8月時点で39ブロックとなっている。「/8」のアドレス・ブロック当たり1677万個だから,残りは6億 5432万個分しかない(図1-1)。
影響が出るのは2012年~2013年
しかも最近は「/8」のアドレス・ブロックにして年間13ブロック,約2億個のペースで,ICANNが持つ割り当て可能な在庫が減っている。このまま進むとあと3年で,ICANNから割り当て可能なIPv4アドレスがなくなってしまう計算だ。アジア太平洋地域のRIRであるAPNICのジェフ・ヒューストン氏の推測では,2011年2月5日にICANNから割り当て可能なアドレス・ブロックがなくなってしまうという。その後は,もう新規に割り当てられるIPv4アドレスはない。
ちなみに,過去に無駄に割り当てたIPv4アドレスをICANNで回収して,再度割り当てることも考えられている。ただし,回収できる見込みがありそうなのは,「/8」のアドレス・ブロックで14ブロック分程度だという。最近の消費ペースで換算すると,回収できたとしても1年程度の延命効果しかない。焼け石に水の状態だ。
ICANNから新規割り当て用のIPv4アドレスの在庫がなくなっても,すぐにインターネットに影響が及ぶわけではない。RIRは9カ月~1年半程度分,日本のプロバイダは2カ月~1年程度分のIPv4アドレスの在庫を持っているからだ。ただ,もう補充はできなくなるので,RIR,プロバイダの順でIPアドレスの在庫が底をつく。2012年から2013年にかけて,ユーザーはIPv4アドレスの不足を実感することになりそうだ。