2008年10月下旬に久しぶりにアメリカを訪問した。米Microsoft主催のPDC 2008を取材するためだ。そこで深刻なトラブルが発生した。日本からもっていったS社のパソコンが突然起動しなくなったのだ。

 考えてみれば前兆はあった。作業を終了するときにスタンバイを使うと,ほぼ間違いなく次回の起動に失敗した。そのために,いつも完全にシャットダウンする必要があった。それでも,そもそも起動に失敗して強制的に再起動することがあった。そんなところに,よりによって開催前日の深夜2時過ぎに,突然異常終了して再起動を始めたと思ったら,それ以降は2度とまともに立ち上がらなくなった。

 筆者はあせった。なにせ次の日,というか数時間後に迫ったその日の朝からPDC本番が始まるのである。だが,パソコンが使えなくては仕事にならない。それから朝までは,パソコンとの格闘だった。スタートアップ・ファイルの修復や,ディスクの完全チェックなどを何度繰り返しても状況は改善しない。ログオン画面が表示されるまでに時間がかかる。ようやく画面が表示されてログオンしてもディスクをカリカリと読み込むばかりで,まともにデスクトップが表示されない。5分ほどかかってやっと出てくるのは「起動に失敗した」といったエラーのメッセージばかりだ。スタート・メニューさえ選べず,とてもまともに使える状態ではない。

 朝までいろいろと試行錯誤をした結果,ネットワーク機能さえ組み込まないセーフ・モードならば,かろうじて起動することがわかった。セーフ・モードとは,Windowsを実行するために最低限必要な機能だけを組み込んで起動するモードのこと。画面は640×480ピクセルのVGAの解像度でしか使えないし,そのほかOSとして最低限必要な常駐ソフトやドライバもいっさい使えない。そのセーフ・モードでさえ,エクスプローラを起動しようとすると,やはりハングアップしてしまう。だが,なんとかテキスト・エディタを起動して日本語を入力することはでき,コマンド・プロンプトを使えばUSBメモリーへファイルをコピーすることも可能だった。

プレスルームのパソコンとUSBメモリーを駆使して原稿を送信

 そうこうしているうちに,朝のキーノート・セッションが始まる時間が迫ってきた。筆者は,壊れかけたノート・パソコンをかかえて会場に向かい,プレスルームへと駆け込んだ。すると,プレスルームのテーブルに,LANスイッチに接続したLANケーブルや電源の束と並んで,デスクトップ・パソコンが4台だけ置いてあった。急いでその中の1台のパソコンの前に座り,USBメモリーからデータを読み出せることを確認し,さらにWebメールでメールのやりとりはできることを確かめた。残念ながら,日本語入力までそのパソコンではできなかったが,これで何とか原稿を送れそうだ。

 壊れかけたノート・パソコンで日本語の原稿を書き,それをUSBメモリー経由でプレスルームにあるデスクトップ・パソコンにもっていき,Webメールで編集部に送信する。それを編集部でITproのWebサイトにアップして公開してもらう。こうした面倒な手順を繰り返しながら,苦労して公開したのがPDC初日のニュースである。読んでいないかたは,こうした苦労を想像しながら一読してもらえると嬉しい(まとめ記事はこちら)。筆者の記者生活も20年以上だが,セーフ・モードで原稿を書いたのは空前にして,おそらく絶後であろう。

 とはいえ,PDCの開催期間中ずっとこのままではたまらない。プレスルームのデスクトップ・パソコンが常に使用できるとも限らない。そこで,初日のニュースを一通り書き終わったところで,新しいパソコンを買いに行くことにした。非常時なのでぜいたくは言っていられない。会場であるロサンゼルス・コンベンション・センターの近くに「Office DEPOT」があるというので,手っ取り早くそこへ向かってみた。念のために説明しておくと,Office DEPOTは,パソコン・ショップというよりもOA用品を専門に売っているちょっと大きな文房具店のようなもの。全米に800店以上ある巨大な小売りチェーンだ。

 徒歩5分ほどのOffice DEPOTの店舗に入ってみると,そこには20台ほどのノート・パソコンが並んでいた。ところが,多少の出費は仕方がないと覚悟していたのに,そこに並んでいたパソコンの価格は意外なほど手頃である。どのパソコンも3G~4Gバイトというメモリーを搭載しており,CPUにCore 2 Duoを使っているモデルでもほとんどが1000ドル以下。CPUにAthlonなどを搭載したモデルは500ドル程度である。当時は1ドル90円台前半という円高だったこともあり,ほぼどれでも10万円以下で購入することができる。

 結局,購入したのはGateway社のM-6827というモデル。Core 2 DuoのT5750(2.0GHz)というCPUを使い,3GBのメモリーと160Gバイトのディスクという構成で599ドルだった。モニターは15.4インチのワイドスクリーンで,OSにはWindows Vista Home Premium SP1を搭載している。当時のレートで考えると,5万5000円程度の価格である。

日本語入力も初期セットアップだけで可能になる

 パソコンの価格は思ったより安かったものの,心配だったのが日本語の入力である。現在のWindowsはUnicodeをベースにしたシングル・バイナリになっている。そのため,日本語を表示したり取り扱ったりするのは基本的に問題がないはず。だが,記事を書くには日本語の入力ができなければ使いものにならない。場合によっては,日本語入力ソフトを入手して追加でインストールすることが必要かと覚悟していた。ところが,この心配は杞憂に終わった。ホテルに帰って買ってきたパソコンの電源を投入し,最初に立ち上がった画面で地域として「日本」,言語として「日本語」を選択すると,そのままMS IMEや日本語のフォントが標準でセットアップされるのだ。

 こうして初期セットアップが終了したあとは,まったく問題なく仕事に使えた。日本で買ったパソコンとまったく同様に日本語を入力できるし,表示のフォントもまったく同じである(プレスルームのパソコンでも日本語は表示できるものの,フォントがきれいには表示されなかった)。もちろん日本語エディタや画像編集ソフトといった作業で必要となるソフトも問題なくインストールして利用できる。Windowsのメニューが英語表示のままだったりファイルの並び順が異なるといった,細かな違いはあるものの問題になるほどではない。キーボードの配列が日本のパソコンと違うのもすぐに慣れ,PDCの残り3日間を予定通り無事にこなすことができた。

 そうした経験をしてから,日本の量販店での価格を見てみると,日本のノート・パソコンは相対的に高いという印象を持った。自宅の近くにあるY電機のパンフレットでは,同価格帯のものはAthlon64やTurion,CeleronといったCPUを搭載し,2Gバイト・メモリー,160Gバイト・ハードディスクという構成のノート・パソコンが,その日限りの先着販売展示処分品という限定品で5万9800円。逆に,今回購入したのと同程度のスペックのノート・パソコンで探してみると,Core 2 Duoを搭載しているノート・パソコンは同様の展示処分の限定品でも8万9800円や9万9800円という価格である。限定品でないモデルでは最低でも12万4800円もする。

 今回のパソコンを購入した599ドルという価格は,最新のレートに直しても6万円弱である。これは話題となっているNetbookと呼ばれるようなミニノートとほぼ同程度の価格である。もちろん,筆者が購入したワイドスクリーンのノート・パソコンとミニノートとでは用途が違う。だが,Core 2 Duoを使って3Gバイトを超える大量のメモリーを搭載し,Windows Vistaでもさくさく動くノート・パソコンがこのぐらいの値段で買えるなら,PC互換機が登場した頃のように,アメリカに行ったついでにノート・パソコンを買ってくるという選択も十分あり得る時代と感じた。