>>[Scene2:延命]から読む 

 キャリア・グレードNATは,インターネットをグローバル・アドレスの世界とプライベート・アドレスの世界に分割する。どんなに工夫しても,使い勝手の低下は避けられない。Scene2で見てきたようにアプリケーションによってはキャリア・グレードNATを越えられない(図3-1の問題点1)。またTCP/UDPポートを大量消費するアクセスもできなくなる(同問題点2)。

図3-1●キャリア・グレードNATで生まれる制限をIPv6で補う<br>キャリア・グレードNATを導入することで,利用できなくなるアプリケーションも存在する。そのようなアプリケーションを利用したいユーザーは,IPv6インターネットを併用することになる。
図3-1●キャリア・グレードNATで生まれる制限をIPv6で補う
キャリア・グレードNATを導入することで,利用できなくなるアプリケーションも存在する。そのようなアプリケーションを利用したいユーザーは,IPv6インターネットを併用することになる。
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根本的な対策はIPv6の導入

 IPv4インターネットにキャリア・グレードNATを導入するのは,あくまで延命策の位置付けだ。しかも,IPv4アドレスの残りが少なくなるほど,キャリア・グレードNATによるIPv4アドレスの延命は困難さを増していく。最初はプロバイダ内の使いまわしだけで済みそうだが,さらにIPv4アドレスの有効活用を進めようとすると,プロバイダ間で限られた数のIPv4アドレスを融通しあう必要が生じるからだ。

 そこで,キャリア・グレードNATによるIPv4インターネットの延命と並行して根本的な対策が必要となる。それが次世代IPである「IPv6」の導入だ(同解決策)。

 IPv6はインターネット用ネットワーク・プロトコルの新バージョン。IPv4とはまったく別のプロトコルだ。アドレス空間をIPv4の32ビットから128ビットに拡張しているため,在庫を心配せずにパソコン1台ずつにIPアドレスを割り振れる。キャリア・グレードNATどころか,ユーザーのNATも不要になる。

サービス低下を補う形で普及

 IPv6インターネット導入のシナリオはこうだ。まず,キャリア・グレードNATによるサービス・レベルの低下に不満を持つユーザーは,IPv6インターネットを導入することになる。キャリア・グレードNATを越えられないP2P通信や,ポート数を大量に消費するアプリケーションについては,IPv6インターネットを利用するわけだ。つまり。キャリア・グレードNATによるサービス低下を補う形で導入が始まる。

 こうしてIPv6インターネットの導入が進むとともに,インターネット上の通信は徐々にIPv4からIPv6に移行していく。

ユーザー側はルーターの変更程度

 このようなシナリオが実現するには,IPv6インターネットが導入しやすく,IPv4インターネットとの使い分けが無理なくできることが必要だ。実は,IPv6インターネットを導入するハードルは高くない。

 例えばWindows Vista/Server 2008やMac OS Xといった最新バージョンのパソコンOSは,デフォルトでIPv6とIPv4を併用できる(図3-2の1)。LANにIPv6ルーターがある場合,必要なネットワーク設定は自動で済むので,手作業による設定は必要ない。

図3-2●IPv4とIPv6の共存は難しくない<br>別のネットワーク・プロトコルとして扱えるので,同一の物理ネットワーク上に共存させることができる。
図3-2●IPv4とIPv6の共存は難しくない
別のネットワーク・プロトコルとして扱えるので,同一の物理ネットワーク上に共存させることができる。
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 また,同一LAN上でIPv4とIPv6を併用するのも問題ない(同2)。ルーターやサーバーはIPv6対応が進んでいる。LANスイッチは,ネットワーク・プロトコルを意識しないので,併用にそもそも問題はない。

 IPv6インターネット・サービスは,IPv4インターネット接続サービスと同一のアクセス回線で利用できる(同3)。専用線接続であれば同一回線上のやりとりでIPv6パケットとIPv4パケットを混在させる「デュアル・スタック接続」で利用できる。Bフレッツやフレッツ・ADSL経由の接続であれば,IPv6パケットをIPv4パケットでカプセル化してやりとりする「トンネル接続」で利用することになる

 ユーザー側ではインターネット接続用ルーターやファイアウォールをIPv6に対応したものにする必要はある。しかい,そのほかに変更するところはほとんどない。こうして,IPv6インターネットを使えるようになれば,キャリア・グレードNATを越えられなかったP2P通信もできるようになる(同4)。