どこの企業にとってもIT人材の育成は大きな課題だ。地銀も例外ではない。最大手の横浜銀ですら「IT人材が不足気味」(米田取締役)である。「TSUBASA」陣営に加わる千葉銀のように、「第3次オンライン時代の新人がいま40歳代となってIT部門を背負っているので人材不足は当面問題ない」(森本昌雄システム部部長)というところは少数だ。

 共同化は、主導行を除けばシステムのアウトソーシングともいえる。主導行以外の地銀は、共同化に参加することでIT部門を人数を大幅に減らす。例えば阿波銀は、じゅうだん会への参加によって45人から7人に減らした。ちば興銀も、地銀共同センターの参加前に60人いたIT要員を7人にした。減員がITガバナンスの低下を招かないように気をつけなければならない。

 参加行のIT部門が弱体化すると、共同化全体の足を引っ張る存在になりかねない。そこで共同化陣営は力を合わせて、参加行のIT部門の強化に臨んでいる。例えばじゅうだん会では、すべての参加行のIT要員が八十二銀行のIT部門に出向してシステム開発や保守の仕事を学んでいる。地銀共同センターでも、参加行のIT要員が合計で常時20人程度、開発ベンダーのNTTデータに出向して開発や保守の仕事を学ぶ。

 「むしろ、人数を減らしてもITガバナンスを強化できるというメリットを得るために共同化に参加した」。阿波銀の前田部長は、こう言い切る。実際、「45人で単独システムを維持していたころよりも開発や保守のスピードが上がった」(同)。確かに、中小地銀がメインフレームやWebシステムの開発技術者を自前で調達するのは容易ではない。地方都市となればなおさらだ。共同化に参加すれば、主導する大手地銀のIT部門、あるいはITベンダーのパワーを自前のリソースのように利用できる。「IT部員の人数が問題ではない。弱体化を防ぐ仕組みがあるかどうかが肝だ」という阿波銀の前田部長の指摘は的を射ている。

 地銀業界では、今後も共同化の動きが加速しそうだ。注目は、この10月に札幌銀行との合併を果たす第二地銀最大手の北洋銀行である。

 札幌銀を存続させたままシステム統合を予定していた同行は、「マルチバンク対応の基本設計を完了させている」(中村達哉システム部担当部長)。最終的には合併し単独運営となったが、「他の第二地銀からシステムを使わせてほしいという声があれば、いつでも共同化を実現できる」(石井純二常務取締役)。横内龍三頭取も「単独運営に必要な費用や人材は維持するが、他行から話があれば拒むことはない」と新陣営の発足を示唆する。

 「コスト削減につながるシステム共同化は、特に不況下で有力な武器となる」。福岡銀の廣田執行役員は、自信を見せる。これは地銀に限らない。どのような企業にも、業界他社と、あるいは企業グループ内、社内の部門間でシステム共同化を進める余地は十分にある。そのとき、共同化で先行する地銀から学ぶべき点は少なくない。

したたか日立がハード首位、ベンダーのシェア争い

 地銀108行(10月14日時点)の勘定系システムの動作プラットフォームのシェアは、日立製作所が32行を獲得し首位であることがわかった(図A)。開発・保守ベンダーのシェアで首位のNTTデータにハードを納入する戦略が奏功した格好だ。

図A●地銀108行の勘定系システムにおけるITベンダーのシェア
図A●地銀108行の勘定系システムにおけるITベンダーのシェア
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 32行のうち日立が元請けとして開発を受注しているのは17行にとどまる。残りはNTTデータ経由だ。さらに元請けの17行のうち6行は、NTTデータの勘定系パッケージ「BeSTA」を使った第二地銀向けの「NEXTBASE」の顧客だ。NTTデータと協調路線をとりながら、自社のシェアを着実に広げてきた様子がうかがえる。京都銀行や肥後銀行、千葉銀行といった共同化の推進行に、商品販売システムやチャネル連携システム、営業店システムなどの新製品を納入して共同化参加行への導入の足がかりとするなど、勘定系以外でもしたたかな取り組みが目立つ。

 開発・保守ベンダーの争いでは、NTTデータが2位の日本IBMに5行の差をつけている。現STAR-ACEのリプレースの際には他社にくら替えされそうになったが、最後の最後に巻き返して首位の座を固めた。NTTデータの顧客は、すべて共同化に参加している。共同化ブームに乗った快進撃といえる。

 反対に共同化の波に乗り遅れているのが富士通だ。10年前はハードと開発・保守ベンダーの両面で日本IBMと首位争いを演じていたが、現在はやや停滞気味。共同化に踏み切っていない地銀を多く抱えるだけに、他社からのリプレース攻勢も強まるだろう。それらの顧客に魅力的な提案ができるかどうかが再浮上のカギを握る。