陣営によってシステム共同化の目的は異なるが、その一つに維持コストの削減があるのは間違いない。そのコストに直結する要素は三つある。「広さ」と「深さ」、それに共同化に参加する地銀の「数」だ。

 「広さ」は共同化の対象範囲を指す。勘定系だけを共同化するのか、情報系や対外系まで含めるか。ATMや営業店システムはどうかなどだ。

 「深さ」は、データセンターとハードウエア、ソフトウエアのどこまでを共用しているかを意味する。一つのデータセンターに参加行のハードを並べているならデータセンターの共同化。同一のハードを論理分割して各行のアプリケーションを搭載する形態は、データセンターとハードの共同化だ。いずれもアプリケーションは同一仕様のものを各行が別々に動かす。

 実際に動かすアプリケーションまで共用すると、ソフトの共同化となる。もちろん各トランザクションは銀行ごとに振り分ける。「マルチバンク方式」と呼ばれる機能で、銀行固有の「銀行コード」を用いて実現する。ソフトまで共同化すると、OSやミドルウエアの購入・維持費用も減らせる。

横浜銀は深さと広さの両方を追求

 地銀の共同化は、陣営によって広さと深さ、数に違いがある(図2)。深さと数で先行するのが「地銀共同センター」。中核に採用するNTTデータの勘定系パッケージ「BeSTA」はマルチバンク方式に対応している。第1号ユーザーである京都銀の勘定系の維持コストは、年間40億円から半減した。情報系などを含めた同行のIT投資総額は70億円強だったので、全体から見ると3割減った計算だ。2番目に利用を始めた千葉興業銀行の栗原隆浩経営企画部IT企画室長も「勘定系の維持コストは、ほぼ半減した」と証言する。

図2●主なシステム共同化陣営における「広さ」と「深さ」
図2●主なシステム共同化陣営における「広さ」と「深さ」
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 広さが際立つのは、福岡銀行と広島銀行などによる「共同利用型基幹システム」や三菱東京UFJ銀行が主導する「Chance」。昨年1月にChanceの第1号ユーザーとなった常陽銀行は「共同化によるIT投資全体のコスト削減効果は3割程度」(鶴田明システム部長)という。福岡銀もほぼ同程度だ。

写真●横浜銀行の米田誠一取締役執行役員MEJARオフィサー
写真●横浜銀行の米田誠一取締役執行役員MEJARオフィサー

 残る要素の「数」は、論理的には多いほどコスト削減効果が大きいはず。ただ、地銀の例では数と効果の関係は見えない。実はシステム共同化は、ITベンダーが主導するタイプと銀行が主導するタイプの二つに分かれる。前者の場合、利用料はITベンダーがあらかじめ採算ラインを計算して決め、参加行数に連動しての増減はない。一方で銀行主導タイプでは、現時点で参加行数に大きな差がない。これが数と効果の関係が見えない理由である。

 数年前から稼働している共同化陣営は、広さか深さのどちらかを優先していた。共同化の難易度が、広さや深さに比例するためだ。これに対して地銀最大手の横浜銀行が北陸銀行、北海道銀行と進める「MEJAR」は、「広さと深さの両方を追求する」(米田誠一取締役執行役員MEJARオフィサー、写真)。2010年1月に稼働を予定するMEJARは後発組なので、共同化による効果の最大化を狙うわけだ。

 具体的には、広さとして、勘定系や情報系、対外系に加えて、融資支援、口座振替などの周辺システム、ATMや営業店端末に搭載するソフトの共同開発まで踏み込む(図3)。ATMや営業店端末といったハードの共同調達にも踏み切る。深さの面では、地銀共同センターで実績のあるBeSTAを勘定系に採用。ソフトまで共同化する。開発工数は「3行の合計で2万人月」(米田取締役)。地銀のシステム共同化では過去最大級である。

図3●横浜銀など3行のシステム共同化「MEJAR」の論理構成
図3●横浜銀など3行のシステム共同化「MEJAR」の論理構成
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