米グーグルが2、6、8月と立て続けに「Gears」の機能を拡張した。Gearsは、Webアプリケーションをオフラインで使うためのブラウザ用プラグイン。オンラインが前提のWebアプリでオフラインとは矛盾するようだが、9月2日に発表したChromeも標準搭載し、注目を集めている。 FirefoxやSafariといった他の最新Webブラウザもオフライン機能をうたう。

 地下鉄の車内。ノートパソコンを開き、社内Webメールで急ぎの返信を打っていた。ちょうど駅と駅の間で、うっかりブラウザの「戻る」ボタンをクリックしてしまう。あわてて返信画面の表示を試みるが、通信カードの電波は圏外。「ページに接続できません」の文字が無情に現れるのみだった(写真)。「やれやれ、また初めから書き直しか」―。

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 同様な経験をしたことはないだろうか。無線LANスポットが増え、電車内での通信サービスが登場するなどモバイル通信環境は充実してきた。しかし、環境の充実によってモバイルで仕事をする機会が増えたために、逆に通信ができずに仕事に支障を来す事態が目立ってしまう。

 このような状況を打破する技術が相次いで登場している。ネットに接続していない状態でもWebアプリケーションを利用可能にする「Webアプリのオフライン化技術」だ(同、下写真)。

 その最先端をいくのが、米グーグルが開発・公開しているWebブラウザのプラグインモジュール「Gears」である。同社は昨年5月にGearsを公開して以来、数回にわたってバージョンアップを実施。この8月22日には最新版を公開した。現在はInternet Explorer、Firefox、Safari(ベータ版)、Windows Mobile向けに提供している。

Webアプリの限界を超える

 「グーグルのWebアプリケーションに対して最も多く寄せられる要望は、オフラインで利用できるようにしてほしいというもの」。グーグルでGearsの開発を担当するエンジニア、アーロン・ブードマン氏は、公式ブログで開発の動機をこう説明する。

 Webアプリの利用はネットに接続した状態、すわなちオンラインであることが前提。だが、長距離を移動する電車や地下鉄といったネット接続が不安定な状況、飛行機や地方のようにネット接続が難しい状況でも、Webアプリを継ぎ目なく利用したい―。こんな要望が高まっているというのだ。詳細は後述するが、 Gearsではクライアントパソコンにデータや処理ロジックといったWebコンテンツを蓄積。オフライン時にはこれらを利用することでシームレスな利用を実現する。

 実際に同社は、Webで提供するサービスを次々とGearsに対応させている(図1)。昨年5月のGears発表と同時に、ブログ閲覧サービス「Reader」をGears対応版に改良。ブログやニュースの見出し部分を最大2000件までクライアントに取り込んで、オフラインでも閲覧可能にした。

図1●オフライン化技術の動向
図1●オフライン化技術の動向
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