Webブラウザでにわかに三つどもえの争いが勃発した。震源地はグーグルのChrome(クローム)。支配勢力のマイクロソフトIEをFirefoxが猛追する2強構造に割って入った。新たな「ブラウザ戦争」は企業ユーザーにどんな影響をもたらすのかを探る。

 「Chromeの勢いは目を見張るものがある」。NECビッグローブで検索事業を担当する須川肇ポータル事業部主任はこう証言する。同社のポータルサイト「BIGLOBE」にアクセスする利用者のブラウザを調査したところ、Chromeのユーザー数は9月2日の公開からわずか2週間で老舗ブラウザの Operaに肩を並べた。BIGLOBE利用者内でのシェアは早くも4位。Chromeのインパクトの強さを伺わせる。

 Webブラウザの世界は長年、マイクロソフトの「Internet Explorer」(IE)が他を圧倒してきた。一般に70~80%程度のシェアを占めるとされる。だがここ最近は米モジラファウンデーション(モジラ)の「Firefox」が急成長。現在では10~20%程度に達しているとの調査もある。

 そして9月、Chromeが2強に挑戦状をたたきつけた。1990年代末にIEとNetscape Navigatorが繰り広げた激闘の再現となる可能性がある。

 対抗策も急ピッチだ。マイクロソフトはIEの次期版となる「IE8」のベータ版を8月末に公開。来年初頭の正式版公開へ向けて開発を進める。6月に Firefox 3を公開したばかりのモジラも、年内には処理速度を大幅に改善したFirefox 3.1を公開する見込みだ。

 ただ各ブラウザはそれぞれ開発コンセプトが異なり、得意とする領域も違う()。企業ユーザーは特徴をしっかり押さえた上で、利用すべきブラウザを判断したい。

表●主要な最新ブラウザの特徴
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表●主要な最新ブラウザの特徴

「スピード競争」の幕開け

 多くのユーザーが気にするポイントが、Webページの描画やWebアプリケーションの実行の処理速度だろう。この点ではChromeが一歩リードする。 Webアプリケーションの開発言語として広く使われているJavaScriptのベンチマークで、ChromeはIE8とFirefox 3を大きく引き離す(図1)。

図1●JavaScriptのベンチマークテスト「SunSpider」の実行結果
図1●JavaScriptのベンチマークテスト「SunSpider」の実行結果
Ajaxアプリケーション高速化を念頭に置いたChromeが高い性能を示した

 高速処理が可能な理由は独自のJava-Scriptエンジン「V8」にある。グーグルが既存エンジンの弱点を調べ上げ、独自開発した。具体的には、 V8はJava-Scriptで書かれたソースコードをプロセサが直接実行できるマシン語に変換するところがミソ。一般のソフトのようにコードをコンパイルしてから実行している。従来のJavaScriptエンジンはコードを1行ごとに解釈する「インタプリタ方式」で、これが速度の足かせになっていた。

 グーグルが提供するWebメール「Gmail」やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)版オフィスソフト「Go-ogleドキュメント」といったWebアプリケーションは、いずれもJavaScriptで処理ロジックを記述している。Java-Script処理の高速化で快適に利用できるようにして、利用者をさらに増やそうというわけだ。

 Chromeに先を越された他のブラウザも巻き返しを狙う。モジラはFire-fox 3.1で新しいJavaScript処理エンジン「TraceMonkey」を搭載する予定だ。モジラは図1で使ったベンチマークと同じ方法で測定し、「V8の2割以上も高速だった」と主張している。Mozilla Japanマーケティング部テクニカルマーケティング担当の浅井智也氏は「現在もチューニングを進めており、C言語で開発したソフトにも劣らない処理速度を目指す」という。

 マイクロソフトも「IE8正式版を公開する時点までにJavaScriptエンジンを大幅に改良する」(日本法人の原田英典ビジネスWindows本部シニアプロダクトマネージャ)と意気込む。