米グーグルが満を持して公開したWebブラウザ「Chrome」。Webアプリを高速化・快適化する基盤技術を自ら開発し取り入れた。Webアプリケーションの普及を一気に加速させる可能性が高い。米マイクロソフトは次期ブラウザ「Internet Explorer 8」で迎え撃つ。

 「もしあなたがブラウザを使っていることに気づかなければ、我々の取り組みは成功だ」。グーグルがChromeの機能や特徴を解説したマンガの1コマである。同社がChromeで目指す世界を端的に示している。

 グーグルは9月2日(米国時間)、オープンソースのWebブラウザChromeを無償公開した()。ベータ版だが日本語を含む47カ国語で動作する。

図●「Google Chrome」の画面例
図●「Google Chrome」の画面例
よくアクセスするサイトや最近追加したブックマーク、検索履歴や関連サイトなど、利用者の行動に応じた情報を表示する

 同社の狙いはWebブラウザをより高速・快適にすること。独自開発の基盤技術を盛り込んだブラウザを公開したのはこのためだ。「グーグル自身がWebブラウザをリリースすることで、Webの革新をより加速する」。Chromeの開発を担当するライナス・アプソン氏は語る。

 Chromeが搭載する主要な基盤技術は二つある。一つはJavaScript実行エンジン「V8」。Ajaxを使ったWebアプリケーションの処理速度を、デスクトップソフトとそん色ないレベルまで高めるのが狙いだ。「Webアプリケーションはより複雑でリッチになっており、高いJavaScript 処理能力が不可欠。V8は他のブラウザのJavaScriptエンジンの何倍も高速だ」(アプソン氏)。

 もう一つは専用アプリのようにWebアプリを利用可能にする「Gears」だ。GearsはWebアプリをオフライン状態でも利用可能にするためのブラウザ用プラグイン。ChromeはGearsを標準搭載している。

 Gearsの特徴を最も生かしているのが、Webアプリの「ショートカット」を作成する機能だ。例えばGmailのアイコンをデスクトップに作成し、これをダブルクリックすることで直にGmailを起動できる。起動したGmailには「戻る」ボタンなどブラウザのUIは出てこない。デスクトップ専用ソフトと同様の操作性でGmailなどを利用できるわけだ。

 Webアプリを快適に使えるようにする狙いは、Chromeの画面デザインにも表れている。Chromeを画 面いっぱいに拡大して表示すると、画面上部にタブが並び、一般的なWindowsアプリのタイトルバーは出てこない。Internet Explorer(IE)やFirefoxといった他のブラウザのUIがあくまでWindowsアプリの作法にのっとっているのと対照的だ。

 Chrome登場の前週に当たる8月27日(米国時間)、期せずして米マイクロソフトも次期ブラウザ「IE8」のベータ2を公開した。こちらも高速処理や快適操作をうたい文句にしている。Java-Scriptの処理速度を「IE6に比べて7倍、IE7に比べて5倍高速化した」(原田英典ビジネス Windows本部シニアプロダクトマネージャ)。Webページの好きな部分だけを記録・閲覧する機能も搭載する。

 ChromeとIE8の登場で、Webをあらゆる処理の基盤とするクラウドコンピューティングの主導権争いが一気に激しさを増してきた。