本コラムも今回で27回を数える。連載を始めるに当たり、編集長の多田さんと何度も議論を重ねた。諸外国に比べてIT(情報技術)を戦略的に活用していない、ひいてはCIOの地位が低いと仮定される日本において、出版に値するお話が連載に耐え得るほどあるのだろうかという疑問を持っていた。それが、既にはじめの数回で杞憂であることが分かったのは、うれしい誤算だった。

 私のインタビューはごく簡単な質問の羅列である。経歴・実績・問題意識・眠れない事象など、技術系出身で本来はシャイな方ではないかと思われる方を含め、ほとんどのCIOが「眠れているんだよ」と笑いながら、表現力豊かにその実績をお話しくださる。たった1時間のインタビューから引き出される結論が毎回新しいものであることに私は100%の自信を持つようになった。

決め手は、現場を踏んでいるかどうか

 26回のインタビューを通して、私は1つの確信を持つに至った。それは、成功している企業のCIOはいずれも現場主義であるということだ。連載を始める前に、CIOが理系出身であるのか文系出身であるのかということが実績を左右するのかと話し合ったことがあるが、インタビューを通して得た私の結論は、それは重要な要因ではないということだ。それよりも、CIOが現場を踏んでいるかどうかが重要なファクターであると思う。

 その現場とは、その企業の戦略や焦点となる現場という意味。製造がその企業の成功を導いた重要な現場であれば、CIOが製造現場の経験者か、営業がその業績を引っ張る会社であれば、営業経験者であるかどうかだ。だからこそ、それぞれ異なる業種、異なる戦略を持つ会社の性格が反映され、毎回異なる結論が引き出せるのだろう。

 組織は人事次第というがまさに人事の成功が企業のIT化や戦略の実施を確実なものにしていると思うようになった。この考えを深く掘り下げれば、企業の変革期において戦略や市場の変更を余儀なくされた時には、CIOも次の戦略を実践するにふさわしい現場の人を採用するべきだ。

 こうしてみると、CIOの人選はCEOとあまり変わらない。ITを重要な戦略の一部と考える企業はまずCIOの人選が成功の秘訣と思う次第だ。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA