フレッツ光シリーズの拡販に陰りが見えた。2008年第2四半期の純増は昨年度同期を15%以上も割り込む低迷ぶり。高速回線ニーズとひかり電話の料金メリットという既存需要の飽和が顕在化した。ゲーム機のネット接続など新たな利用シーンを模索するが,流れを変えるまでには至っていない。

 フレッツ光の加入者の伸びに勢いがなくなった。1カ月間の純増ユーザー数が,NTT東西合計で20万件に届かない事態に陥っているのだ。毎月20万件以上の純増数確保は,2006年3月から約2年半の間ほぼ達成してきた“最低ライン”である。

 それにもかかわらず,7月にはNTT西日本が10万件に届かず,東西合計の純増は19万8000件にとどまった。直近の9月はNTT東日本までが10万件を割り,回復の兆しが見えない状況である(図1)。

図1●NTT東西のフレッツ光シリーズの月別純増数<br>4月以降,毎月純増数が減少している。このペースでは今年度目標の達成は危うい。
図1●NTT東西のフレッツ光シリーズの月別純増数
4月以降,毎月純増数が減少している。このペースでは今年度目標の達成は危うい。
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 そんな中で9月14日,フレッツ光シリーズの累計加入者数が,1000万件の大台を超えた。皮肉なことに,それと同じタイミングで,伸び率の頭打ち傾向が顕在化した。

第2四半期は前年同期比-15.7%

 NTTグループが2008年度の目標に掲げた「純増340万件」を達成するには,月平均で東西合計28万件以上のペースが必要である。これに対して上期の月平均は約22万件。進捗率は38.8%にとどまる。NTT東西ともに「まだ半年の猶予があり,目標達成はあきらめてはいない」と言う。だが,上期の不足分を取り返すには,東西それぞれの純増数を月平均17万件超のペースに回復させなければならない。勢いを盛り返す材料は乏しく,年度内の目標達成は限りなく不可能に近い。

 今年度の目標が達成できなければ,昨年ハードルを下げたばかりの「2010年度中に2000万件」の実現も危うくなる。“2000万件”は,残り2年間も今年と同様340万件の純増確保によって到達する「現実的な数字」のはずだった。その前提が崩れ始めたのだ。

 今年度の推移を見ると,夏からの落ち込みが激しい。例年,引っ越し需要で4月にピークを迎え,夏休みなどで契約の動きが少ない8月に向かって純増数は低下する。こうした季節変動要因はあるものの,第2四半期の純増実績は,前年同期と比べて15.7%も下回る想定以上の失速。季節変動以上の要因が影響しているのは明らかだ。

累計1000万件が純増維持の重荷に

 低迷の要因として考えられるのは(1)新規獲得の不調,(2)解約回線数の増加,(3)従来のニーズに代わるけん引役の不在──の三つである(図2)。

図2●フレッツ光の販売ペースを鈍らせる三つの背景<br>2005年のひかり電話の登場で一気にペースアップしたが,需要の飽和が現実になりつつある。
図2●フレッツ光の販売ペースを鈍らせる三つの背景
2005年のひかり電話の登場で一気にペースアップしたが,需要の飽和が現実になりつつある。
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 この中で,NTT東西が真っ先に挙げるのは(2)の解約数の増加だ。「累計契約者数の母数が増えたことで,解約数自体も増えてしまった」(NTT東日本の日森敏泰・コンシューマ事業推進本部・営業推進部IPアクセスサービス部門長)という。

 フレッツ光の解約率は,引っ越しなどが解約機会に結びつかない携帯電話よりも多少高い1%台と見られる(日経コミュニケーション推定)。解約の傾向は「例年と比べて特に変わった様子はない」(日森部門長)というが,母数が1000万件ならば,月10万件が流出する計算だ。30万件の新規受注でようやく純増は20万件。「受注数自体は前年度を上回っている」(日森担当部長)とはいうものの,解約増をカバーし切れなくなっている。

パソコン中心の既存需要は一巡

 “一定の解約率”という想定可能な純減要因をカバーし切れなかったのは,(1)の従来の販売手法が通用しなくなったことにほかならない。あるプロバイダは,これまで量販店で獲得してきた「光回線契約とのセットでパソコンの購入代金を割り引く販売手法が通用しなくなってきた」と証言する。量販店店頭では,定額制のモバイル・ブロードバンドとノート・パソコンとのセット販売が主力商品となり,光回線とのセット契約と競合しているという。

価格見直しできず“非PC”が頼み

 こうした例だけでなく,既存の光回線需要の一巡を指摘する声は多い。月額料金が4000円台の「マンションタイプ」は,ADSL回線と加入電話の組み合わせよりも料金が安くなるケースがあることや,入居する全世帯を対象にできる効率性から,新規受注の稼ぎ頭だった。だが,上半期の受注は不調だったようだ。プロバイダらは,「ADSLからの乗り換え需要の大半を掘り尽くした」と指摘する。

 戸建て向けでは,料金の高さが普及の妨げになっている。現状のISP料金も含めた月額7000円弱を支出できるユーザー層以外には,需要が発掘ができていない。KDDIはそこに目を付け,10月から月額6000円を切る「ギガ得プラン」を投入してきた。NTT東西も価格設定を見直せば,“失地回復”の可能性はある。しかし,他社との競争条件に対する規制や,2011年度の光事業黒字化という経営目標に縛られ,身動きが取れない。

 頼みの綱に挙げるのは,テレビやゲーム機といったパソコン以外の端末のネット接続ニーズだ。例えば,「子供が独立し,パソコンを使わなくなった夫婦世帯にも,テレビをつないで光回線を使い続けてもらいたい」(日森担当部長)と解約抑制を期待する。しかし,映像配信系サービスは,今のところ「パソコン・ユーザー向けの付加価値」の域を出ていない。非PC端末を中心に根本的な接続ニーズを掘り起こせなければ,純増数回復は難しいだろう。