クレジットカードなどカードの世界で今日起きていることは、急速な電子化の波である。お金が必要だと思った時に現金を持っていなくても支払いができるようにするのが電子化だ。個人間であれ企業間であれ、経済活動は支払いをする際の技術が様々な形で「電子(の世界)」に移りつつある。
例えば、欧州やアジアで当社が導入している「PayPass」は非接触型の決済カードであり、財布から出さずに地下鉄に乗ることができる。
デビットカードの利用もここ数年、世界中で急増している。米国では私や妻の世代はクレジットカードの利用が主だが、20代の息子たちは銀行口座から即座に引き落とされるデビットカードを平気で使う。中国やインドや東欧などの新興市場は、デビットカードの立ち上がりが早い。
電子化に対応する非接触型決済カードなどの新製品や新サービスは、当社のプロダクツ・サービス・グループと技術部門、カードを実際に発行する銀行などの金融機関が協力して開発する。その際、ターゲットとした市場にすぐに浸透するようベストな時期を設定して開発を進めることが大切だ。また、イノベーションだけではなく、国や地域、言語、年齢層によって需要が異なるため多様性と多文化性も、カード業界の競争では常に求められる。
「どこに向かい、何をしているか」を常に確認
デビットカードについては今年4月初め、画期的な「インテグレーテッド・プロセシング・ソリューションズ(IPS)」を発表した。金融機関や地域、アプリケーションごとにばらばらだったシステム環境から完全に脱却し、全世界を網羅する当社の1つのシステムに提携先金融機関がすべてつながるようになる。デビットカード向けの新機能を素早く全世界に展開しやすくなるし、システム容量の拡大も簡単になる。デビットカードの利用が急増しているため、これは大変重要なことで、開発に何年もかけた。今年半ばから米国で利用を開始し、デビットカードの利用が多い国や地域を手始めに順次広げていく予定だ。
IPSと同様に、私にとって重要なプロジェクトだったのは、ソフトウエア開発部門長だった時に担当したクレジットカード利用時の中核処理を担うシステムの更改だ。1998~2003年までの6年間かけて、当社のメインシステムで走らせていたプログラムを完全に書き替え、いつどこで誰が決済をしようと最も素早く処理ができる決済ルートを確保するようにした。このプロジェクトを開始した時、最高経営責任者(CEO)のロバート・シーランダーは新しいビジネスチャンスに対応するために「大きな飛躍を遂げよう」と決断を下し、メインシステムを構成するハードウエアも全面刷新すべく、1億6000万ドルもの投資を実行した。
この6年間のプロジェクトの際に最も苦労したのは、プロジェクトチームの「勢い」を持続することだ。プロジェクト開始当初は、「CEOが決断した時の勢いを失わないようにしよう。これを成し遂げ、新市場のパイの大きなシェアを獲得するんだ」という気持ちが強くても当たり前だが、その気持ちを6年にもわたって維持するのは簡単ではない。これが、プロジェクトの成功の鍵だった。チーム内で頻繁に打ち合わせをするようにし、「私たちはどこに向かい、今何をしているのか」という点で共通認識を深めることに徹底的に努めた。新しいソフトウエアが完成する度にIT(情報技術)業界の様々な賞に応募するなどし、チームを鼓舞し続けた。
今回のIPS事業にも当てはまるが、大きな事業の成功は技術力よりも人にかかっている。技術力に多少問題があったとしても、モチベーションの高い人材がいて、「何としても解決してやる」という思考で問題に挑み続ける文化が社内にあれば、必ず突破口は見つかる。さらに、そうした意識を新しく入社してきた人にも見せることで、良い文化を次の世代に伝承していくことができる。
諦めずに問題に挑み続ける精神は、当社の財産だ。ただし、10人が10人同じ考えを持っていても困る。イノベーションと同時に多様性や多文化性も必要な業界なので、異なる角度からビジネスを見るチャンスを失うのはまずい。様々な考え方の人材が必要だ。私は13年前にマスターカードに転職してきたが、当社はチームワークが良く、優秀で多様な経験を持つ技術陣に支えられている。
グローバル・テクノロジー・アンド・オペレーションズ暫定社長