2009年6月の改正薬事法施行を目指して現在、省令や政令などで細部を詰めている厚生労働省。ネット販売規制の意図は何か。キーマンとなる厚生労働省医薬食品局総務課、厚生労働技官の関野秀人氏に話を聞いた。

(聞き手は、原 隆=日経ネットマーケティング


2008年10月16日にパブリックコメントを締め切ったが今後のスケジュールは。

厚生労働省 医薬食品局 総務課 厚生労働技官 関野 秀人 氏
厚生労働省 医薬食品局 総務課 厚生労働技官 関野 秀人 氏
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 現在、パブリックコメントで集まった意見を類型化し、厚生労働省としての見解を用意している段階だ。結構時間のかかる作業で、具体的にいつ頃にアクションを起こすか、現段階では見えていない。

 今回は政令案として改正薬事法施行日を2009年6月1日と提案しているが、これはあくまでも案。ただ、法律が公布された日から3年以内という制限があるため、2009年6月13日が最終的なデッドライン。それを越えると法律を逸脱した行為になってしまう。

ネット企業によるネット販売規制反対の声が高まっているが。

 ネット販売についての議論は、薬事法改正より前から議論が展開されてきている。例えば、2006年3月から6月にかけて参議院、衆議院でネット販売について議論されている議事録が残っている。唐突に最近出てきた話ではない。なぜ今、ネット企業による反発が高まっているのか分からないというのが正直なところだ。我々は立法府で認められた法律をきちんと運営していく立場。国会での審議を尊重しなくてはならない。でなければ、議論した結果と違うことを厚生労働省が勝手にやっているということになりかねないからだ。

ネット販売企業は「対面の原則」がおかしいと主張しているが。

 確かに「対面の原則」は法律自体に明確に条文になっているわけではないが、政令や省令で書き込むことを念頭に置いて法律ができている。今回の法律改正は、情報提供を徹底するということと、専門家がいなくても売っていた現状がそもそも制度と乖離しているところから議論が始まっている。実は販売制度は1960年から変わっていない。ここに初めてメスをいれた改正だ。

 我々は様々なコミュニケーション手段があることについて否定しない。ただ、通常のコミュニケーションを考えてほしい。電話やメールなど様々な便利なコミュニケーションツールがある。ただ、急いでいる場合にどうしてもこれだけは正確につかんでおきたい、詰めた議論をしたいといったとき、対面で会う方法を選択しないだろうか。活字だとなかなかニュアンスは伝わらないし、対面が一番いい方法だろう。

 薬には作用があって副作用がある。もともと両面を持ち合わせているものだ。だからこそ、様々な努力を通して、悪い副作用の部分が出ないようにしていく努力が必要だ。副作用による被害がゼロになるわけでないが、我々はゼロを目指していかなくてはならない。そのためにも、こうした薬の本質を考えるとやはり「対面」が必要だと考える。薬のリスクから使用者を遠ざけたいのだ。

 厚生労働省は常に薬害の問題を考えていかなければならない。これまで何も問題がなかったから、というのではダメだ。実際に薬害が発生してからでは遅い。

ネット販売規制で販売チャンネルが減ることについては。

 現在、何かしらの事情で店舗まで足を運んで医薬品を購入できない人にとってネット販売規制は確かに入手経路が減ることになるだろう。ただし、配置販売業のサービスを利用する手がある。これは消費者の家庭や企業を実際に訪問して医薬品を販売するというもの。これを利用すれば「対面の原則」が守られながら、店舗に足を運ばずとも医薬品を購入できる。

ほかの団体からの圧力があるのではという声もある。

 業界団体からの圧力はまったくない。これは信じてもらっていい。むしろネット販売企業が指摘しているような団体とはこれまでも激しいやり取りを重ねてきた。これは懸念している業界団体に直接問い合わせてもらっても構わない。

 今回の薬事法改正は従来の売り方をしている業界にとってもかなりシビアな制度になっているはずだ。正確に言えば、緩くなった、厳しくなったとかの問題ではなく、曖昧(あいまい)になっていた部分を明確にしようというのが主目的だ。

 対面の原則を守るといっても薬剤師が不在という問題もあり、なかなか確保できないという実情があった。だからこそ、夜間早朝の専門家の不足を解決するために「登録販売者」という新しい資格制度を設けて対応するわけだ。

 改正薬事法が施行された後は販売監視体制も強めていく。販売制度に関する規定は、医薬品販売の許可の要件に含まれている。許可の取り消し、一定期間の営業停止など法に基づく行政処分を課していく。決して実店舗にとってのみ有利な法改正ではない。