サプリメント、医薬品などを販売するEC(電子商取引)サイトを運営するケンコーコム。2000年5月に開設した同サイトは現在、約11万点の健康関連商品を取り扱う。同社もヤフーや楽天と同様、厚生労働省によるネット販売規制に強く反発。「薬事法施行規則等の一部を改正する省令案」のパブリックコメント(意見募集)に対しても意見書を提出し、同社サイト上では「医薬品が、インターネットで購入できなくなるかもしれません」と消費者に事態の深刻さを訴えている。同社代表取締役社長で日本オンラインドラッグ協会の理事長も務める後藤玄利氏に話を聞いた。

(聞き手は、原 隆=日経ネットマーケティング


ネット販売規制が仮に通ると御社にはどのような影響がでるか。

ケンコーコム 代表取締役社長 後藤 玄利 氏
ケンコーコム 代表取締役社長 後藤 玄利 氏
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 まず、今回のネット販売規制の対象となる商品の売り上げは全体のなかで約5%。弊社サイトにおける購入者数で1割弱くらいの人にご迷惑をかけることになる。経営に対する影響も大きいが、ネット販売を手がけている地方の中小規模の薬局などにも多大な影響をおよぼす。

厚生労働省がネット販売規制に動いた理由をどう見るか。

 既得権益グループに厚生労働省が乗っ取られている。具体的に言えば、日本薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会、日本置き薬協会だ。

今回の省令案について問題視している点は。

 厚生労働省が薬事法に書かれていない「対面」での販売にこだわっている点だ。そもそも、薬事法上では医薬品を安全、安心して販売・購入できる環境を作るために情報提供をしっかりしなさいとしか書かれていない。

 ネットでも十分、安全、安心な販売体制を構築している。例えば、医薬品を購入しようとすると問診票が出てくる。「アレルギーがありますか?」「妊娠していますか?」など購入者の状態を調べるためのものだ。それらにチェックをしてもらい、何らかの購入にふさわしくない項目がある場合は購入できない仕組みを入れていたり、テレビ電話でやり取りできる環境を整えたりと、インターネット技術を最大限活用して体制作りを進めている。ドラッグストアなどよりも情報提供はきっちりしているという自負がある。

 確かに改正薬事法では厚生労働省によって定めるという一文が入っている。ただ、厚生労働省は勝手な拡大解釈をしている。曲解といってもいい。厚生労働省は「しっかりとした情報提供」を「面と向かって手渡ししなくてはならない」という論理にすり替えてネットに規制をかけようとしている。立法側でゆだねられていないことまで厚生労働省が勝手に決めるなと主張したい。

厚生労働省はネットに対して不安を持っているのでは。

 国内において医薬品を販売しているのはすべて薬剤師。ECを手がけているのもすべて薬剤師がやっている。専門性はもちろんのこと、副作用などの危険性も熟知している人が運営しているわけだ。ネットだからといって情報提供をせずに売るとか、誤った情報を提供するということはまずあり得ない。

 そもそも、医薬品販売で重要なのは副作用が出るかもしれない人に対して、医薬品を販売しない体制をどう作るかということ。皆さんも経験したことがあるだろうが、ドラッグストアに行くと、買い物かごに医薬品を入れてレジで出すだけ。対面だからといって、何かがクリアできているわけではない。問診票に答えてもらって医薬品を販売している我々の方がよほどきちんとした体制作りをしている。

改正薬事法自体は規制緩和を目的とした改正と言えるか。

 この点についても疑問は残る。例えばコンビニで一般医薬品の一部が購入できるようになるとされているが、これも何かしらの圧力を受けて有名無実化している。第二類医薬品、第三類医薬品を新たに販売できる「特定販売者」の資格取得条件に1年間、ドラッグストアや薬局での1年間の実務経験が必要という障壁を設けてしまった。つまり、ドラッグストアの店員しか登録販売者になれないわけだ。コンビニで販売可能な環境が整ったとしても、実際に医薬品販売に参入できる企業は少ないと見ている。

厚生労働省の省令案を止める施策を考えているか。

 厚生労働省が実施したパブリックコメント(意見募集)は、消費者、ネットで医薬品を販売する事業者を含め、相当数の不満の声が集まっているはずだ。それでも、厚生労働省がダメなものはダメと主張する可能性は結構高いと思う。

 今回の件はあまりにも理不尽。厚生労働省は消費者の声を聞かず、既得権益者の声しか聞いていない。インターネットを通じてお客様の健康作りをサポートしていこうというのが弊社のミッション。合理性に欠き、本来の一般医薬品販売の目的に間違いなく反している規制に対して、我々は厚生労働省がなんと言おうと徹底的にやり抜くつもりだ。こちらが正しいと思うことは今後も主張し続け、最悪の場合は行政訴訟も辞さない考えだ。いずれにせよ、この状況を変えられるのは大臣か司法しかない。