英BTが次世代ネットワーク「21CN」でのサービス拡充を図るため,オープン戦略に打って出ている。具体的には,通話やSMSなどの機能を Webアプリケーションから使うためのAPI(application programming interface)を開発者に開放したことが挙げられる。こうした動きに欧州の通信事業者各社が追随している。

(日経コミュニケーション編集部)

 “オープンAPI”の提供というと,米グーグル,米ヤフー,米アマゾン・ドットコムを始めとした企業が思い浮かぶ。オープンAPIとは,第三者が開発するアプリケーション/サービスに,自社のサービスの機能を自由に取り込めるようにするもの。これまではインターネット関連企業が先行していたが,通信とインターネットの世界の融合が加速し,各分野のプレーヤが相互に競争する時代を迎えた結果,通信事業者もこうしたオープン化の動きを無視できなくなってきた。

 通信事業者は従来の自前主義,垂直統合型の事業戦略からの転換を迫られている。欧州では,通信事業者が自らの通信サービスの機能を第三者に開放する方向で動き始めた。

オープン化でリードするBT

 英BTは,早くからオープン化に取り組んできた代表的な固定通信事業者である。同社は世界に先駆けて次世代ネットワーク(NGN)を採用。同社が「21CN」と呼ぶNGN上で,通信機能をモジュール化して提供する構想を持っていた。この構想の実現手段の一つが「Web21C」である。グーグルやルクセンブルクのスカイプといった異業種のインターネット企業を仮想の競争事業者に設定したものだ。

 Web21Cの一環として,同社は2007年5月,通信サービスなどの活用を可能にするAPIの無償公開に踏み切った。具体的には,「Web21CN SDK(software development kit)」を開発者に提供。BTが持つ通話,SMS(short message service),認証といった各種通信サービスや関連する機能を第三者がWebアプリケーションに組み込めるようにした。

 BTによると,SDK提供後,約半年で4100回以上のダウンロード(米マイクロソフト,米オラクルなどの大手ソフトウエア・ベンダーだけでなく,中小および個人のデベロッパーを含む)があった。さらに同社が提供するテスト環境では,2530以上のアプリケーション作成が試みられ,その内の37については商用サービスに耐え得るプロダクトになったとしている。

 BTはさらに2008年夏にかけて様々な提供内容の改善を図った。具体的にはSDKのアップグレード(4月実施),デベロッパー向け開発環境のサポートの充実,さらには開放するプラットフォーム機能の更なる拡充などだ。特に後者にはユーザーからの要望が多い,課金機能などの開放を検討するといった内容が含まれる。

 BTのアプローチは明確だ。自らがユーザーへのサービスの最終提供者になるのではなく,インターネット関連企業などに対して,同社の持つ通信関連やセキュリティ機能などを「卸売り」していくビジネスモデルを描いている。BTは有力なサード・パーティに同社機能を使って“マッシュアップ”してもらうことで,多様な収入源を確保しようとしているのだ。

オレンジも4月に一部APIを公開

 BTのアグレッシブな動きを眺めつつ,英ボーダフォン,伊テレコム・イタリア(TI)や独ドイツ・テレコム(DT)などが同種の試みを実験ベースまたは限定的な形で展開してきた(表1)。2008年に入って,各事業者はオープン化への取り組みを積極化し始めている。

表1●通信事業者などのAPI公開状況
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表1●通信事業者などのAPI公開状況

 先陣を切ったのは,仏オレンジである。当初,親会社のフランス・テレコムは2006年12月,自社の写真共有サイト「Pikeo」を開設し,自らオープンなビジネスモデルのサービスを手がける姿勢を見せた。しかし,そのスタンスは徐々に変わり,単独ではなく,他の有力なインターネット関連企業と連携したビジネスを志向しつつある。