英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム

 以前,ある通信事業者の大規模課金システムのプロジェクトに参加し,その評価を担当したことがある。新しいサービスの提供や競合他社との競争上,不可欠なシステムだったが,高度な技術と膨大な資金を必要とした。しかし,定額の通信サービスが広がっている今,そんな複雑なシステムを誰が使うだろう。

 このところ欧州,特に英国では,固定回線の通信事業者のほとんどが音声とデータのサービスを定額で提供している。携帯電話でも定額を採用する事業者が多い。

 例えば,固定通信事業者の英ティスカリは月額20ポンド(1ポンド=177円換算で3540円)でブロードバンドのアクセス・サービスを提供している。英国内および10カ国への国際通話が定額で利用できる。携帯電話事業者でも,イタリアのH3Gは月に49ユーロ(1ユーロ=138円換算で6762円)で,イタリア国内の通話,特定の固定回線への国際通話,同社ユーザー間のテレビ会議がすべて無制限に利用できるサービスを提供する。

 日本でもイー・モバイルの登場に刺激され,すべての携帯電話事業者が定額のデータ通信サービスを提供し始めた。定額制の導入は,世界共通に見られる現象である。

 インターネットにアクセスするブロードバンドは,当初から定額が当たり前だった。一方,固定回線による音声通話サービス事業の将来性は,VoIP (voice over IP)技術の出現によって不安視されている。現在,固定回線のかけ放題サービスは,ブロードバンドやCATV,衛星TVサービスの拡販を目的としたマーケティング・ツールとして使われている。

 携帯電話の世界でも,新規参入者が定額サービスを販売促進ツールとして活用している。マーケティング力で圧倒的な差がある既存の大企業と対抗するため,新規参入企業はサービス価格を下げる傾向がある。

 欧州の規制当局は最近,携帯電話の着信料金を低く抑える政策を採択した。このため,無制限利用のパーケージ・サービスが次々に登場するとみている。固定回線の通信事業者と同じ道を歩むことになりそうだが,固定と無線で一つだけ違うのは通信量の増加に合わせて通信設備(基地局)を増強しなければならないことである。定額を取り入れた電話事業者は,サービス収入が増えない一方で,トラフィック量が増えるという現実に直面するのだ。

 増加するトラフィックを滞りなく伝送してユーザーをつなぎ止めるため,通信インフラに追加投資をしなくてはならない。ユーザーの多くが室内で大量のデータを送受するため,トラフィックを固定回線に逃がすフェムトセルが重要な役割を果たすだろう。

 通信の世界は,定額の時代に突入している。通信事業者は売上を維持あるいは増加させるために新しいサービスを創出しなければならない。高マージンの音声通話事業に慣れている事業者は,低マージンの新サービスへの適合に苦労すると予想している。

ヨン・キム(Yung Kim)
英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
 米国の投資金融システムの崩壊は,低い自己資金と膨大な他人の資金でハイリターンを得るシステムに原因がある。金融の世界で働く人たちは激烈といっていいほど良く働く人達だ。早朝から夜遅くまで何万ドルのボーナスを目指していた。この崩壊劇は,私たちの働く姿勢に変化をもたらす。今こそワークライフバランスを考えるときである。