今回からは,いよいよPMBOKで定義されている5つのプロセス群について,説明していきます。まずは,立ち上げプロセス群についてです。

 図1は,PMBOKの全体構成を,非常に単純化して表したものです。

図1●PMBOKの構成の概略
図1●PMBOKの構成の概略
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 これからお話する立ち上げプロセス群で実施するプロセスは,グレーの部分の,

  プロジェクト憲章作成
  プロジェクト・スコープ記述書暫定版作成

の2つです。

 この2つのプロセスは,「プロジェクトマネジメント統合」という知識エリアに入っています。ちなみに,2000年版のPMBOKでは「プロジェクト憲章作成」だけでしたが,2004年版PMBOK(正式には第3版といいます)で,「プロジェクト・スコープ記述書暫定版作成」が追加されました(PMBOKは4年に1回改訂されることになっています)。

 この2つのプロセスの説明は,そんなに難しいものではありません。でも,大変重要なプロセスです。なぜなら,プロジェクトを成功させるためには,プロジェクトをちゃんと“立ち上げる”必要があるからです!

 皆さんのお仕事では,

  ・いつ,プロジェクトが始まったか分からない。
  ・プロジェクトの責任者が分からないまま,なんとなくスタートしてしまう。
  ・使える資源(人・物・金など)が不明なまま,仕様が決まっていく。
  ・プロジェクト・マネジャーの権限と責任が不明確なまま。
  ・プロジェクトの目的や生み出すものが何か,よく分からない。

ということはありませんか?

 私は,こんなプロジェクトの始まり方を「ぐじゅぐじゅのままプロジェクトが始まる」と,よく表現しています。ぐじゅぐじゅで始まったプロジェクトは,ぐじゅぐじゅのまま進行していきますので,要注意です!

プロジェクトの“根本的な取り決め”を記述した「プロジェクト憲章」

 ぐじゅぐじゅなままプロジェクトを始めないようにするには,どうすればよいと思いますか?

 PMBOKの考えでは,「プロジェクト憲章」という大変重要な正式文書を発行して,プロジェクトを始めます。

 企業は様々なビジネスニーズや商談から,シニアマネジメント(プロジェクトについての意志決定権を持っている人)の責任によって,実施するプロジェクトを決めます。システム開発プロジェクトであれば,社長やCIO(最高情報責任者)などが決めることになります。

 経営資源が潤沢にあれば,候補に挙がったすべてのプロジェクトを発足させるでしょうが,企業の経営資源は限られています。従ってシニアマネジメントは,ビジネスニーズに基づいて候補に挙がったプロジェクトから重要なものを選定して,発足させます。このようにプロジェクトを選定した結果,正式にプロジェクトを発足させるための文書が,「プロジェクト憲章」と呼ばれる文書なのです。

 「憲章」は「Charter」の直訳です。国語辞典で調べると,「重要で根本的なことを定めた取り決め。特に,基本的な方針や施策などをうたった宣言書や協約」といったような説明が出ています。例えば「国際連合憲章」は,「国際連合の基本的性格とその目的・組織を定めた法規」です。これは,19章(111条)もある,結構長い法律のような文書です。

 プロジェクト憲章も同様に,プロジェクトに関する“根本的な取り決め”を記述した正式文書です。つまり,プロジェクトの目的を明確にし,正式に認可し,プロジェクト・マネジャーを任命し,プロジェクト・マネジャーに組織の資源を使用する権限を与える文書です。

 プロジェクト憲章の発行責任者は,シニアマネジメントです。そして,PMBOKの定義では,プロジェクト憲章が発行されるまで,正式にはプロジェクト・マネジャーは任命されません。PMBOKには,「プロジェクト・マネジャーの指名は,できればプロジェクト憲章の作成中に行うことが望ましい」とあります。