エノテック・コンサルティングCEO
米AZCAマネージング・ディレクタ
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
米AZCAマネージング・ディレクタ
海部 美知

 米国ではiPhoneブームはそろそろ一段落の気配だが,米グーグルのAndroid対応機の第一弾である「T-Mobile G1」が9月に発売され,スマートフォンの話題は尽きない。携帯端末全体の売り上げが伸び悩む中,スマートフォンだけは爆発的な成長を見せている。この現象は何を意味しているのだろうか。

スマートフォンのブームは続く

 米国で“スマートフォン”と言うと,QWERTYキーボードを持ち,OS上で種々のアプリケーションとブラウザを使える「ミニPC」のような機能を備えた携帯電話のことを指す(iPhoneのようなタッチパネル方式も含まれる)。

 スマートフォンの代表例は,カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)のBlackBerryだ。20年以上前からページャ用周波数帯を使ったメール端末として,弁護士などのビジネス・パーソンに使われており,現在でも圧倒的なシェアを保っている。

 調査会社の米シナジー・リサーチによる2008年第2四半期の販売数推計では,BlackBerryはスマートフォン全体の46%を占める。 iPhoneは年成長率150%の勢いでシェア15%の第2位と急追するが,BlackBerryも成長率92%と負けていない。このほかWindows Mobile対応機なども含め,携帯端末全体に占めるスマートフォンの比率は,前年の10%以下から12%に増加している。今後Android対応機も加わり,さらにその比率は上昇すると思われる。

事業者間でも使えるサービスが追い風

 スマートフォンのブームは,単なる流行ということではなく,多くのユーザーに受け入れられる理由がある。

 かつて米国の携帯電話事業者は細分化されていたため,事業者ごとのデータ通信サービスの規模は十分な利益を得られるほど大きくなかった。携帯電話事業者はもうからず,ユーザーにとって使いにくかった。

 そこへ,とても魅力的なデータ通信サービスが,携帯電話事業者からではなく,Webからやって来た。例えば,MySpaceやFacebookなどの SNS(social networking service)である。これらのサイトにコンテンツ(テキストや写真など)をアップロードするのにスマートフォンがよく使われている。また, iTunes経由でiPhoneアプリを販売する「App Store」という仕組みも登場している。

 これらのサービスはWebをベースにしており,特定の携帯電話事業者に依存しない。このおかげで,サービスが事業者の制約を越えることができ,利益が上がる土壌が整った。

 Androidの登場についても,端末デザインなどのユーザーから見た市場性は未知数ながら,SNSやiTunesと共通するWebベース・サービスとビジネスモデルという観点から注目に値する。

 米国のスマートフォン・ブームは,単なる入力の仕方やデザインの違いで起こったのではない。携帯電話事業を利用した新しいビジネスモデルの兆しととらえるべきだろう。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO,
米AZCAマネージング・ディレクタ
 NTTと米国の携帯電話ベンチャーNextWaveを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングを行っている。シリコン・バレー在住。
 中学生になった長男とSMSでやり取りすることが多い。彼に友達の携帯電話の使い方を聞くと,男の子はほとんど通話にしか使っていないのに,女の子たちは通話以外の機能をたくさん使っているそうで,通学バスの中でずっとメールを打っているという。米国でも携帯電話文化は女の子がますます力を持つようになっていきそうである。