盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が2003年に策定した電子政府ロードマップにおける優先推進課題の一つに「文書処理全過程の電子化」がある。文書の新規作成から移管・保存に至るまで文書処理全過程を電子化し、中央省庁、広域自治体、自治体などの行政機関に、さらに将来は韓国電力、都市ガス公社、韓国情報社会振興院など民間機関も含む公共機関にも電子文書を流通させることを目標とした。

 2004年6月より順次、「電子文書流通体系の高度化」「記録物管理体系の構築」「文書台帳の電子化」を大きく三つの柱として電子政府事業を推進してきた。

 その結果、「電子文書流通体系の高度化」では2006年下半期の時点で、行政機関間の電子文書流通率は97.8%に達している。「記録物管理体系の構築」においては、記録物の収集、一時保存、廃棄から、活用、公開、最終保存まで公共機関の記録管理業務の全過程を自動化・標準化したことによって約45億ウォンの改善効果を生み出した。「文書台帳の電子化」については、行政機関で使用している875種の文書台帳のうち516種の電子化が2006年末時点で完了している。3つの事業の取り組みについて概説する。

電子文書流通体系の高度化:(1)推進背景

 電子文書流通体系の構築事業は金大中政権時代に始まった。金大中政権当時の2001年12月にコンサルティングを受けた結果、次の4点が問題点・改善点として指摘された。

  1. 行政機関間では政府電子文書流通支援センターを基に電子文書のやり取りを行っているが、行政機関と公共機関間の文書のやり取りには郵送やファクス等を使用している。このため、文書流通に通常2~3日かかり、時間と人材の浪費など業務生産性の低下を招いている。従って、公共機関まで電子文書流通を拡大させることが急務となってきた。
  2. 政府電子文書流通支援センターは行政自治部(当時。現在は行政安全部)から「行政電算網ソフトウェア認証」を受けた標準電子文書システム注1)を利用していた機関間の電子文書流通のみを支援していた(標準電子文書システムは現在、すべての行政機関とほとんどの公共機関に普及している)。このため、標準ではない電子文書システムを利用している機関や電子文書システムがない機関とは電子的に文書を流通できなかった。そこで、標準ではない電子文書システムを利用する機関とも電子的な文書流通を可能にする方法を検討する必要があった。
  3. 当時、政府における電子文書の流通方式はベンダー従属的であり、受信機関からセンターの文書を持ってくるポーリング方式であった。このため、機関の追加・拡大および文書流通支援センターの拡大時は拡張性が落ちてしまう。オープン化と相互運用性および拡張性の確保が必要であった。
  4. 電子文書流通体系は文書流通の最大容量が10MBに制限されていた。この容量を増やすと共にセキュリティ面も改善し、電子文書流通の利便性・信頼性や安全性を強化する。
注1)韓国の各中央省庁や自治体では、それぞれの組織の「資料館」が公文書の管理をしている。資料館では文書、ビデオなど様々な媒体で資料を保存しており、これら資料全体を管理するシステムが「記録物管理システム」である(以前は「資料館システム」と呼ばれていた)。その中で文書の資料を管理するシステムが「電子文書システム」である。なお、現在は政府標準に沿ったシステムでないと文書管理に関するシステムは導入できない仕組みとなっている。
図1●文書処理全過程の電子化流れ図
出典:「電子政府ロードマップの成果」、行政自治部(2007)
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電子文書流通体系の高度化:(2)事業目標

 電子文書処理と流通のためには電子文書流通対象機関を政府・自治体間だけではなく、公共機関まで広げていくことが電子文書流通体系の高度化事業の1次目標として2004年5月に指定され、その具体的な方法について同年6月~12月までISP(Information Strategy Planning:情報戦略策定)が行われた。同時に文書原本の正確な伝達および受発信確認の体系等の安定した電子文書流通体系の構築も電子文書流通体系高度化事業の目標として選定された。

電子文書流通体系の高度化:(3)事業内容

 電子文書流通体系の高度化事業は次の三つに分かれる。

  1. 電子文書流通対象機関を下部機関まで段階的に拡大すること。
  2. 文書流通方式の転換。文書受信側自らが電子文書流通センターに保管されている文書を持ってくる方式から、文書の送信側から受信側に直接送る方式に転換する。このことによって拡張性と相互運用性を同時に確保できるようになる。
  3. 電子文書流通体系の利便性と安全性の考慮。電子文書システムの機能改善で文書原本の正確な伝達や大容量の文書転送機能を実現することにより、使用者の利便性を改善することである。さらに文書配達証明システムの導入を通じて安全性強化も求めた。

電子文書流通体系の高度化:(4)推進過程および成果

 1999年制定された公共機関の記録物管理法に基づいて、2002年11月に電子文書システムの標準を確定し、2004年1月まで行政機関の文書処理と電子的流通基盤を整備した。この期間中、事務管理規定の改定で文書の電子処理が義務付けられ(2002年12月)、電子文書システム認証も完了し(2003年10月)、標準電子文書システムが導入された(2004年3月)。

 2004年6月から同年12月までは、前述のように電子文書流通体系の高度化のためのISP(情報戦略策定)を実施した。電子文書流通の対象拡大案と電子文書流通体系の安全性や機能強化案も同時に策定した。

 こうした前政権から続いていた一連の計画の実行に基づいて、2005年6月から同年12月まで電子文書流通体系高度化1段階事業(「電子文書流通体系の高度化:(2)事業目標」で述べた高度化事業の1次目標を達成するための事業)を実施。さらに翌2006年5月から12月までは電子文書流通体系高度化2段階事業を実施した。

 行政自治部(現・行政安全部)は、高度化の第1段階事業においては、オープンな国際標準電子文書流通方式であるebMS(ebXML Message Service)を利用、公共機関での電子文書流通のためのシステムを構築した。これまでは標準電子文書システムを持っている機関間でも、流通体系はばらばらだった。そこで、電子文書流通対象をすべての標準電子文書システムを使用している機関まで拡大することにしたのである。電子文書流通センターというものをつくり、それを仲介にして、文書の流通方式の転換や利便性、セキュリティを高めている。

 ちなみに2007年1月時点で、58カ所の中央行政省庁を初めとして、248カ所の地方自治体と239カ所の教育庁、国公立大学、国会、中央選挙管理委員会、公共機関等、約670カ所もの機関が政府電子文書流通センターを利用している(2007年5月には727機関にまで拡大)。

 高度化2段階では電子私書箱を導入し、標準文書によらないシステムを使用している機関および電子文書システムの未使用機関までebMSの利用を拡大した。

 2002年78.1%に過ぎなかった行政機関間の流通率は1次/2次高度化事業の結果、2006年下半期現在には97.8%まで増加した。また、行政機関の平均電子決裁率も2002年89.5%から2006年98.4%まで増加した。これは電子決裁および電子文書流通が確実に定着したという証とも言える。

表1●電子文書流通体系高度化の成果指標
区分 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年
流通センター
利用機関数
46 286 307 550 656
流通処理件数
(百万件)
21 31 42
電子決裁
(%)
89.5 92.6 96.3 97.7 98.4
電子文書流通率
(%)
78.1 85.9 95.7 95.8 97.8
出典:「電子政府事業年次報告書」、行政自治部(2007)のデータを基に筆者補足

電子文書流通体系の高度化:(5)今後の計画

 行政自治部(現・行政安全部)は機関間の電子文書の送受信の際、受信可否に関する紛争(言い争い)が絶えず起きるということで、このような問題を根本的に防ぐ政府認証管理システムと連携した配達証明システムを2007年中に構築する計画を立てた(現在は構築済)。並行して、前述した電子文書システムの標準やebMSの利用により、電子文書流通基盤技術にオープンな国際標準を適用させ、センターおよび機関の拡張性と信頼性、安全性を強化し、公共機関まで安定した電子文書流通を支援する体系を整える計画も進んでいった。さらに、電子文書流通機関の拡大に関連する法改正や電子文書流通の信頼性を一層強化していく方針を2007年1月の第2次事業完了報告会で打ち出した。