厚生労働省がパブリックコメント(意見募集)を開始した「薬事法施行規則等の一部を改正する省令案」に対し、2008年10月16日に意見書を提出した楽天。「郵便その他の方法」という特定の販売方法のみを制限する同省令案に対して修正を求めた内容になっている。同社執行役員渉外室室長の関聡司氏に話を聞いた。

(聞き手は、原 隆=日経ネットマーケティング


今回の省令案で最も問題視している部分はどこか。

楽天 執行役員渉外室室長 関 聡司 氏
楽天 執行役員渉外室室長 関 聡司 氏
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 2006年6月に国会の議決を経て改正された薬事法ではネット販売に対する規制は明文化されていない。にもかかわらず、厚生労働省が独自で定める省令でネット販売を規制しようとしている。民意が反映されていないのが最大の問題点だ。

 厚生労働省の大義名分は「対面の原則」。医薬品全般は現実に顔と顔をつきあわせるフェーストゥフェースで販売しなくてはならないと主張しており、ネット販売を含む通信販売では販売してはいけないという。購入する人の状況が分かったうえで販売しないとリスクが大きい、十分なコミュニケーションがとれない、この2点が対面の原則の根拠のようだ。

 しかし、現状を見てほしい。薬局やドラッグストアでこの対面の原則は守られているだろうか。病状の悪い人が直接買いに来るとは限らない。子供の薬を親が買いに来ることだってある。そもそも対面が本当に必要なのだろうか。

 また、ネット販売だから消費者が不利益を被ったというケースを厚生労働省は1件も把握していない。こういった状況下で規制をかけること自体、実におかしい。

仮に省令案が決まった場合、楽天はどの程度の影響を受けるのか。

 現在、弊社が運営するショッピングモール内で一般医薬品を販売する店舗は約200店舗。省令案が現状のまま通ると、こうした店舗でほとんどの一般医薬品を販売できなくなる。

ただ、現状の省令案だと第三類医薬品は売っていいことになっている。

 第三類医薬品は一般医薬品全体のおおよそ33%。7割を第一類医薬品と第二類医薬品が占める。3分の1しかネットで販売できなくなるのはまったく納得ができない。

今回の省令案に対して実際の消費者の反応は。

 弊社にも購入できなくなると困るといった多くの意見が寄せられている。インターネット上のブログ記事もチェックしているが、ネットに対する販売規制はおかしいと書いている人が全体の9割近く。約1割がネットは危険だから販売すべきではないという感じだ。その1割をよく見ると、ほとんどがネット販売に反対する薬剤師のブログだったりする。

省令案によって影響を受けると思われるユーザーはどの程度いるのか。

 実際に一般医薬品を購入しているユーザーは、弊社の試算だと約852万人。これは8754万人(2006年末におけるインターネット利用人口)×86.9%(2007年におけるインターネットショッピング利用率)×11.2%(インターネットショッピング利用経験者中で医薬品の購入経験がある人の割合)で推計を出した概算だ。

 影響を被る人数の規模も問題だが、何より外出が困難な人や地理的条件から店舗まで足を運べない人といったネット販売の恩恵をあずかっていた人の機会を奪うことも重要な問題だととらえている。

一般医薬品をネットで販売するメリットは何か。

 リアルな店舗と比べて、的確にアドバイスができる点だ。また、店先では質問しにくいこともネット経由だといろいろと質問できる。また、過去の購入履歴が残る点も大きい。

 厚生労働省は、リアルな店舗と比べてネット販売はコミュニケーションがとれないという。はたして本当だろうか。提供できる情報量を見ても、リアルな店舗と比べて劣っているとは思わない。むしろネットのほうが優れていると思う。

 誤解が多いので申し上げておくが、弊社が運営するショッピングモール「楽天市場」に出店している店舗はすべて実店舗を運営している薬局や薬店が運営するECサイトだ。専門家がネットを活用してきちんと情報提供を行っている。無認可の医薬品を許可なく販売しているところや、個人で輸入して販売しているECサイトなどとは一緒にしないでほしい。