クラウド時代は必ず来る。だが「クラウド・ビッグバン」が起こるわけではない。クラウドに乗るシステムと乗らないシステムが混在することになるだろう。そのときにユーザーが求めるのは,クラウドと非クラウドの橋渡しをする共通プラットフォームである。「どの部分をクラウドに乗せ,どの部分を乗せないか」「両者をどう融合させるか」。これが向こう数年間,極めて重要な課題になる。

 我々のいる基幹業務アプリケーションの世界では,クラウドの波はハードウエアやインフラの世界より遅くやってくる。なぜなら,クラウドと非クラウドのアプリケーションが業務プロセスの観点でかみ合わないといけないという難しさがあるからだ。

2800個のサービスを用意する

福田 譲 SAPジャパン バイスプレジデント ビジネスプロセスプラットフォーム本部長
福田 譲 SAPジャパン バイスプレジデント ビジネスプロセスプラットフォーム本部長
写真・花井 智子

 クラウド対応については,世に先んじて取り組めたのではないかと自負している。2003年に我々は三つの宣言をした。「ESA(エンタープライズ・サービス・アーキテクチャ)で次世代のITを考えていく」「その構成要素としてプラットフォーム製品(NetWeaver)を出す」「NetWeaver上のコンテンツとして既存のアプリケーションをすべてサービス化する」である。

 NetWeaverは2004年に出荷開始できた。アプリケーション資産のサービス化は2006年に一段落したが,その後も半年に一度のペースでまとまった数のサービスを提供してきた。2008年度中には,約2800個のサービスがそろう予定だ。サービスとは例えば「製品IDで在庫を検索する」「従業員番号で上司を検索する」「お客さんIDで請求伝票を検索する」といった粒度のものだ。


鍵を握るのはアプリ層の“共通語”

 時期は遅れるだろうが,基幹業務アプリケーションがクラウドに乗るときは来る。そのときに備えて,当社はある“共通語”作りに取り組んでいる。サービスの処理内容を誰もが正確に把握できるようにするためだ。

 例えば「ファインド・インベントリ・バイ・マテリアルID」と表現されていれば「品目番号で在庫検索する」ということが分かる。「ファインド・ライン・マネージャ・バイ・エントリID」なら「その人の上司を検索するんだな」というふうに理解できる。

 この“共通語”を「グローバル・データ・タイプ(GDT)」と呼んでいる。SAPだけで作っているのではなく,社内で利用していたものをたたき台とし,米P&G,英Unilever,米Exxon Mobilといった,各業界の巨大企業の協力を得て,業界別,業務別のサービスを定義している。それをSAPが開発する形で進めている。

 こうした“共通語”が普及して初めて,業務アプリケーションでもクラウドの恩恵を享受できる時代がやってくるだろう。ちなみに,SAPが2008年末までにそろえる予定の2800個のサービスは,すべて“SAP語”からGDTに直した状態で提供する。