90年代後半,ソリューション・プロバイダはASPサービスに乗り出し,多くが頓挫した。今は当時とは違う。いつでもクラウドに移行できるデータセンターが,いくつも生まれている。クラウド時代のシステム提案のあり方が今,問われている。

 「ASPが突き付けた売り切りビジネスの崩壊」。これは「日経システムプロバイダ(現 日経ソリューションビジネス)」が今から9年前,1999年9月3日号に掲載した特集のタイトルである。アプリケーションをネット上でサービスとして提供するビジネス形態は,今はSaaS(Software as a Service)と呼ばれることが多いが,当時はもっぱらASP(Application Service Provider)と呼ばれていた。

 ASPは,ハードウエア/ソフトウエアのインテグレーションを手掛けてきたソリューション・プロバイダのビジネスモデルを,足下から揺るがすインパクトを秘めていた。ところが,多くのASPが頓挫した。パッケージ製品に比べた使い勝手や価格の優位性を打ち出せず,ブロードバンドが普及していないといったインフラ面の不利が重なったからだ。

 今,米国のITベンダーが持ち込んできたSaaSをはじめとしたクラウド・コンピューティングは,当時のASPと様相が異なる。データセンター運用に必要なサーバー仮想化技術や分散処理技術が成熟し,ブロードバンド回線が普及しているからだ。下支えする技術やインフラが整ったことで,国内ではクラウド・コンピューティング時代の到来をにらんだデータセンターの建設が相次いでいる。ソリューション・プロバイダは今度こそ,サービス・インテグレーションを基盤とするビジネスモデルへの移行に迫られる(図1)。

図1●ソリューション・プロバイダのビジネスモデルが変わる
図1●ソリューション・プロバイダのビジネスモデルが変わる
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業界の構造が変わる

 変わるのはビジネスモデルばかりではない。日本IBMの鈴木康裕氏(ソフトウェア開発研究所主席)は「ソフトウエア業界の産業構造を変える可能性がある」と指摘する。資金力がなくてもサービスを提供できる状況が生まれつつあるからだ。

 鈴木主席は,中国の無錫市が開設したソフトウエアパークの事例を引き合いに出す。このソフトウエアパークは,資金を持たない新興のベンチャー企業を支援するための施設である。無錫市が,オフィス・スペースや電話,ネットワーク環境といった事業開始に必要な設備を低料金で貸し出す。

 ソフトウエア開発に必要なサーバーやストレージといったハードウエアは,米IBMがデータセンターに構築したクラウド・コンピューティングの基盤を使い,サービスとして提供している。物理的なハードウエアを自前で用意するよりも,はるかに安く調達できるようにするためだ。

 クラウド・コンピューティングによって,ベンチャー企業は低コストでSaaSやPaaS(Platform as a Service)を開発できる。開発したSaaSやPaaSをサービス化する際にも,クラウド・コンピューティングを活用することでコストをかけずに済む。鈴木主席は「大手ソリューション・プロバイダの下請けに甘んじてきた中小ソフトウエア・ハウスが,サービス事業者として名乗りを上げられる」と話す。