クラウドにはもちろんデメリットもある。アーキテクチャが複雑になってしまうことだ。従来のWebシステムと同じ手法で開発すれば,トラブルを免れないだろう。開発現場の担当者は,性能面や運用面を考慮して,開発プロセスの見直しを図るべきだ。

 「クラウドを利用したシステム開発は,コスト削減や短期開発に効果があるのは間違いなさそうだ。ただし,システムのアーキテクチャが複雑になる上に,性能やセキュリティ面での不安もある」──。

 クラウドを使った安易なシステム開発に警鐘を鳴らすのは,NECの岸上信彦氏(開発環境技術本部 本部長)だ。開発環境や方法論に詳しい岸上氏によると,インターネット上にシステムを構築する性質上,開発現場ではいくつかの不安を抱えることになるという(図1)。

図1●クラウドを利用したシステム開発で開発現場が抱きやすい不安<br>コスト削減,短期開発など様々なメリットがあるが,インターネット上にシステムを構築する性質上,開発現場を悩ます不安がいくつかある。
図1●クラウドを利用したシステム開発で開発現場が抱きやすい不安
コスト削減,短期開発など様々なメリットがあるが,インターネット上にシステムを構築する性質上,開発現場を悩ます不安がいくつかある。
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 例えば,自社システムと,クラウドが提供するアプリケーションを連携させようとすると,アーキテクチャが複雑になる。「それでなくてもシステム間連携が増えており,複雑化するアーキテクチャに頭を痛めてきた。ここにクラウドのアプリケーションが絡めば,さらに複雑になる。運用コストの増加や予期せぬ障害を招く可能性がある」(岸上氏)。

 現実には危機管理の問題アーキテクチャの複雑さが増すがあるため,会計システムや顧客情報を扱うシステムなどはクラウド環境を利用しにくい。そのため自社でシステムを持つ「所有モデル」と,クラウド環境のアプリケーションを使う「利用モデル」を混在させる状況になるだろう。クラウドに詳しい日本IBMの鈴木康裕氏(ソフトウェア開発研究所 主席)も「何を所有し,何を利用するかという取捨選択は,判断に迷うところ。サービス提供者によってはSLA(Service Level Agreement)が明確ではない場合もある。アプリケーションの配置を検討するアーキテクチャ設計は,これまで以上に難しくなる」と語る。

 クラウドでは,汎用的なネットワークの上をデータが流れる。このため,性能は十分か,情報漏えいはないかといった不安もある。クラウドを利用したシステム開発経験が豊富なテラスカイの今岡純二氏(プロダクトマネージャー)は「特にデータ転送の時間がかかるなど性能面の不安が大きい」と打ち明ける。実装やバックアップなど,開発・運用方式がサービス提供者の制約に縛られる点も忘れてはならない。