写真1●日本郵政グループ 郵便局会社のCIOを務める岩崎明 常務執行役員
写真1●日本郵政グループ 郵便局会社のCIOを務める岩崎明 常務執行役員
写真・中島 正之

世界最大のSalesforce利用企業として,注目を集めた日本郵政グループの導入事例。SaaS/PaaSを活用し,3万人余りが利用する情報共有システムを2カ月で構築した。1年間の利用経験を基に,全職員10万人へと利用範囲を広げようとしている。

 「やれることとやれないことの見極めに重点を置いた」。日本郵政グループ 郵便局会社のCIO(最高情報責任者)を務める岩崎明 常務執行役員(写真1)は,民営化以後約1年のシステム運用をこう振り返る。「利用者は2万~3万人とかなりの規模だが,現在のところ全く問題無く利用できており,スピードや品質には満足している」。


利用者3万人で「試行」

 郵便局会社は,2007年10月に日本郵政公社が民営化して発足した日本郵政グループの1社。貯金,保険,郵便というグループ3事業の代理店業務を担う。発足以来,セールスフォース・ドットコムが提供する「Force.com」上に開発した,二つのシステムを運用してきた(表1)。

表1●郵便局がForce.com上で開発・利用しているシステムの概要
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表1●郵便局がForce.com上で開発・利用しているシステムの概要

 「Force.comを使ったシステム開発は,パイロット的な取り組みと位置付けている」。岩崎CIOは,こう強調する。「ネットワークの向こう側にあるシステムをどれだけ使えるか。SaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)でやれる業務とそうでないものを,見極める必要がある」(同)と考えているためだ。

 同社の社員は11万8000人に上る。「ちょっとした業務をシステム化しても,利用者はすぐに数万人規模にまで増える」(岩崎CIO)。その半面,システム部門の人員は50人。自前でのシステム運用や利用者サポートには,自ずと限界がある。「業務やシステムの変化に迅速に対応できる体制が不可欠だ」(岩崎CIO)。

 もともと,同社がForce.comを採用したのも,ハードウエアやソフトウエアといったシステム資産を自社で所有せず,必要に応じてネット経由で利用できるという手軽さやスピード感を評価したからだ。同社は会計や人事といった業務については,日本郵政グループのほかの事業会社のシステムを利用している。しかし,主に窓口業務を支える情報系システムは,民営化と同時に郵便局会社が独自に用意する必要があった。開発に充てられる期間は数カ月。システム資産を自前で調達して開発する選択肢は,事実上無かった。