最近,デジタル・サイネージというキーワードを見聞きするようになった方がいるかもしれない。実はこれ,家庭以外の場所にあるディスプレイに広告(告知も含む)の映像を流す仕組みである。

 2007年末ころから,会話の中で,いろいろなディスプレイについて「あれはデジタル・サイネージか?」と聞かれることが多くなってきた。会話に出てくるのは「ビルのエレベーター・ホールにあるディスプレイ」「電車のドアの上にある画面」「スーパーの陳列棚にある小さいモニター」などだ。ほとんどの場合答えはイエス。探せば意外と簡単に見つかるくらい身近な存在である。つまり新しい仕組みではなく,前からある仕組みが“広告メディア”として認知され始めた,あるいは使われ始めたというものである。

 映像による広告メディアと聞くと,テレビCMと同じようなものという印象を持つかもしれない。実際,デジタル・サイネージにテレビCMと同じ広告映像を流すケースもある。ただ取材していると,「広告主になる可能性がある企業」「広告を見せるターゲット」「広告の見せ方」といった点で,両者は似て非なるものだと感じることが多い。

 先日,デジタルサイネージコンソーシアムの江口靖二常務理事のところに伺ったときのこと。時間帯は宵の口だったが,話の途中で突然勢いよく雨が降り始めた。そこで「街を歩く人々の多くは,近くの複合施設に駆け込み雨宿りをしているだろう。そこにデジタル・サイネージがあったら,だれがどんな情報を流すとオイシイだろうか」という話題になった。例えば近くの飲み屋さんが「今日は雨だし,ビールを割り引きます」といった宣伝をすればどうか。外歩きはここまでにするか,と考えた人が来てくれるかもしれない。

 つまりデジタル・サイネージには,「特定の場所,時間帯,状況下(天気など)にいる人をターゲットにした広告・告知を流し,そこから人を呼び込む」という,かなりきめ細かい使い方が出てくる可能がある。全国規模で展開しているサイネージに,全国でビジネスを展開する企業がテレビCMと同じような広告映像を流す使い方も当然あるが,それだけに限られるわけではない。江口常務理事は,デジタル・サイネージの大きな市場は,前者のきめ細かい使い方にあるのではないかと見ている。

 そう考えれば,この仕組みは見る側にとってだけではなく,広告や告知をする企業の多くにとっても身近な存在になり得る。いちど身近なエリアのどこにデジタル・サイネージがあって,それがどういう位置付けのものか(どんな映像を流しているのか,流せるのか)を調べてみると,新しい宣伝・告知の形が見えてくるかもしれない。