ある携帯電話事業者(キャリア)の端末のみを扱う専売店いわゆるキャリアショップは,携帯電話事業者の直営店であるケースは少ない。ほとんどは販売代理店が運営している。割賦販売の導入などが進み,携帯電話の販売台数が落ち込んでいるなか,販売の現場はどう分析しているのか。打開策はあるのか。数多くのソフトバンクショップを運営するベルパークの西川猛・代表取締役社長に話を聞いた。

携帯電話の販売台数が落ち込んでいる。状況をどう分析するか。

ベルパーク 代表取締役社長 西川猛氏
ベルパーク 代表取締役社長 西川猛氏

 2007年の携帯市場は,全国で5200万台だったが,業界内では2008年は4000~4200万台と言われている。実に2割以上の落ち込みだ。これは壊滅に近い状況といえる。携帯販売の不況は構造的な問題であり,市場が盛り返すまでには,3年以上はかかるのではないか。財務内容が厳しい販売店は淘汰されるだろう。

 ベルパークは,関東,東海,関西に複数のソフトバンクショップを展開している。ソフトバンクモバイルは「新スーパーボーナス」を2006年10月に導入しており,ほかのキャリアと比べて割賦販売を導入した時期が早かった。この影響で,当時と比べて端末の買い換え率が大きく減少している。2006年10~12月のソフトバンクモバイルの買い替え率は3%。それが2008年4~6月には1.27%になった。約50万台の買い替えがあったのに,現在は約25万台と半減してしまった。

 キャリアはサポート強化のためにキャリアショップを増やす方針を取っており,ソフトバンクショップの店舗数は2006年から1.4倍に増えている。店舗あたりの新規,機種変更が落ちており,販売代理店にとって厳しい状態が続いている。

買い替えサイクルの長期化はこのまま続くのか。

 いずれ買い替え需要は徐々に回復に向かうと見ている。ソフトバンクの新スーパーボーナスは,26カ月の利用が前提となっている。多くのユーザーが端末を購入してから18~20カ月は買い替えないが,その後は徐々に買い替える率が増えると考えている。ソフトバンクも,割賦払いが終了する利用者に向けたキャンペーンを9月から開始している。

販売が厳しい状況下で,どう対処していくか。

 こういうときに従業員を締め付けると会社の勢いがなくなる。財務の健全性を高めることと同時に,人の教育をやるべきだ。最近は,店舗数が増えた影響もあり新人が増えていたが,教育を繰り返し,人材の有効活用化によって12%のコスト削減をした。店舗では,SDカードなどアクセサリー商材を提案することで,携帯電話本体以外の売り上げを増やしている。

他社にはない独自の取り組みは何かあるか。

 フィンランドのノキアの高級端末「VERTU(バーチュ)」の販売代理店契約を結んだ。これは,宝石や時計などでも高級品に注目するコレクターに向けた製品。外観だけでなく,内部の部品や構造も信頼性を高めた特別仕様となっている。2008年末までには,東京・銀座に直営店がオープンする予定だ。

 現在の端末は,飽きられているのではないか。従来と何が違うのかという部分に乏しく,買い換えをそそる材料が少ない。このままでは,キャリアが通信料金の安売り競争に陥り,収入も減ってしまうのでは。米アップルのiPhoneや韓国サムスン電子のOMNIAが,刺激してくれることを願う。そうした端末が出てくれば,売り方も変わる。

 販売員が使い方に精通し,こういう使い方ができますよと本気になって説明していく体制を整える。3年後の携帯業界は,日本の端末のほか,世界の端末が数多く流通し,今とはまったく違う形になっているだろう。