1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,現在に至るまでの生活を振り返って,週1回のペースで公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。
※ 記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。

 米国でBlog(ブログ)が流行しているという話を初めて聞いたのは2年ほど前のことだっただろうか。いったい何だろうと人に聞いてみると,要するにWeb上の日記システムらしい。個人がWebで日記を公開するのは珍しいことではない。というより,少なくとも当時の私の認識によれば,個人が日記をWebで公開する文化は,米国よりむしろ国内のほうが盛んであるはずだった。だから,特に注目すべきトレンドとは思えなかったし,国内向けのBlogサービスの話題を聞いたときも,何を今さら,ぐらいに感じていた。たいして珍しくもないサービスに横文字の名前が付いて,海外でもてはやされているというだけで,まるで最先端のような扱いだ。よっぽどネタに困っているに違いないと思ったものである。

 もちろん,Blogは単に日記をアップロードするだけの仕組みではない。まずは記事を簡単に編集するための機能。それから「トラックバック」といって,ほかのサイトにあるBlogの記事からの被参照リンクを管理する機能。そして,場合によってはBlogの更新をRSSによって告知する機能,記事をカテゴリ別に分類する機能を備えている。

 この中でもBlogをBlogたらしめているのはトラックバックの機能である。他人のBlogに対するコメントを自分のBlogに書き込むと,相手のBlogから自分のコメントに対して自動的に逆リンクをはってくれる仕組みである。掲示板のように一つの場所によってたかって書き込むのではなく,それぞれの書き込みが,書き込んだ人のサイトに保持されるというのは,まさに逆転の発想である。うまく運用すればディスカッションも可能である,とBlog支持者は言う。

 なるほど,すばらしい。とりあえずどんなものか見てみようと,時々見に行くニュース・サイトにトラックバック機能があることに気付いた私は,興味を持った記事のトラックバックを端から追いかけてみた。しかし,現実は理想ほどうまくいかないのが常ということだろうか。トラックバック先の記事は大抵が「××によると○○だそうだ」的な単なる引用に終わっているものがほとんどで,がっかりしてしまった。

 もう少しお互いの顔が見えやすいコミュニティのようなところに行けば,もっと個性的な意見や主張を見られるのかもしれないが,一般的なニュース・サイトではこんなところだろうか。コメントを書いた人には本当に申しわけないが,あえて厳しい言い方をすれば,これではゴミを集めているのとさほど変わらない。

 いや,Blogがゴミ製造機だと言いたいのではない。インターネットというのは黎明期からゴミだらけであった。よい例が,ネット・ニュースやメーリング・リストである。およそ自分と関係のない質問やら情報交換が脈絡もなく次々と流れてくる。今は関係なくてもいつか必要になる情報が含まれているかもしれないと思うと,捨ててしまうわけにもいかない。かくしてディスクには大量のゴミ情報が溜まっていく。しかし中には,せっかくの情報を他人の役に立てたいという意識を持った人々がいて,要点を整理し,FAQとかHow To形式にまとめ,サイトで公開するという文化が出てきた。

 だが,ここにBlogを持ち込んだことで,またネットがゴミだらけになるのではないか…。私が危惧しているというか,正直言ってうんざりしているのはこの点である。もちろん,世の中の大半は「ネットを娯楽とする(ネットで遊ぶ)」人なのかもしれない。そういう人たちにとって,Blogや掲示板は,面白いおもちゃ,あるいは時間つぶしに違いない。

 一方,私にとってネットは仕事に関する情報収集の場である。求めているものが異なるのだから相容れない部分があるのはしかたないが,もう少し何とかならないものだろうか。せっかく他人の役に立ちたいと思って情報を提供してくれているわけだから,せめて基本的な文章の書き方――例えば,何かについて書くときに,自分の考えなのか,他人から聞いたうわさなのか,何を根拠にしているのか,引用元はどこなのか――ぐらいは明確にしてほしい。いっそのこと,Blogの記事を評価するサイトでも始めたらよいのではないかと思うぐらいである。

 あるニュース・サイトで「約4割が社長のブログを読みたい」というような見出しの記事が目についたので読んでみると,「Blogを読んだことのある利用者」に限定したアンケートにもかかわらず「社長のBlogを読みたいと思っている人」は4割しかおらず,しかも「企業Blogの導入を希望しない人」が7割もいるということである。新しいネタをなんとかビジネスにつなげたいと目論んでいる人たちにとってはなんとも寂しい結果である。

 否定的なことばかり書いてきたが,Blogそのものが問題だと言っているのではない。問題は使う人のリテラシーであり,リテラシーの不足を補うことのできないシステムにある。どこで読んだか忘れてしまったが,「2004年はBlog元年」なのだそうである。しかしこうやって見てみると,未発達なところがまだ残っているように感じられてならない。ベンダーは旗を振るだけではなく,技術面でもう少しひねってもらいたいものだと思う次第である。新たな市場が開ければこちらとしてはメシのタネが一つ増えるわけであるから…。さて,あなたならBlogにどんな機能を追加したいと思うだろうか,あるいはBlogの機能をベースにしたどんなシステムがあればよいと思うだろう。