「タカダ先生,今回のタイトルは,ずいぶんと大見得を切ったものですねぇ」

 筆者が主催する勉強会で,当日の資料を顧問先企業の方々に配り終えるやいなや,彼らから異口同音の発言がありました。

大見得を切るからには,それなりの自信があるということですよ。
「ほほぉ,そいつは楽しみだ」

 全員の視線が,レジュメへ食い入るように注がれました。まず,資金を調達するにあたって,銀行借入金によるか,自己資金を使うかといった形で,調達する資金のバランスを考えるところから話を始めましょう。この問題を,筆者は「最適ファイナンス構成論」と呼んでいます。

ようやくたどり着いた「銀行借入金」と「自己資金」の最適な組み合わせ

 次の貸借対照表を見てください(図1)。

図1●貸借対照表の図解
図1●貸借対照表の図解

 総資産・負債・純資産の構造を準用して,カッコの中にあるものに注目してください。右側にある「銀行借入金」と「自己資金」の最適な組み合わせを求めて,左側にある「設備投資案件」に資金を投入しようというのが「最適ファイナンス構成論」です。

 これを拡張して,貸借対照表の右側にある負債と純資産との構成割合が,企業価値(左側にある総資産の時価というべきもの)にどのような影響を及ぼすのか。そこに最適な組み合わせは存在するのか。こうした議論を行なうことを「最適資本構成の問題」といいます。

「それに関しては,MM理論が有名でしたね」

 MM理論とは「モディリアーニ・ミラー理論」の略称であり,1958年に発表されて以来,今年でちょうど半世紀が経ちました。この理論は,銀行借入金などの負債を増やすと支払利息に節税効果が働いて企業価値は増大するが,借入金を増やしすぎると倒産するリスクが高まり,企業価値はやがて減少に転ずる,というものです。企業価値が増加から減少に転ずるところで,負債と純資産の最適な組み合わせ=最適資本構成が存在するだろう,というのがその骨子です。もしくは,加重平均資本コスト率(注)が最低となるところで最適資本構成が実現するだろう,と説明されることもあります。

「通常は,自己資金の資本コスト率(自己資本コスト率)よりも,銀行借入金の資本コスト率(支払利子率)のほうがはるかに低いから,設備投資を行なうときはその全額を銀行借入金で賄(まかな)ったほうがいい,とされていますね」
そこが,この半世紀にわたって議論されてきた最適資本構成の弱点でもあります。借入金には節税効果が高いといっても,闇雲に借金を増やすことには企業としても抵抗があるでしょう。

「理論的な説明はわかりました。それで,最適資本構成はどこに存在するのですか?」
一般的な公式や最適解については結局,「難しいんだな,これが」や「実務での検証に委ねられます」といった調子で,この半世紀が過ぎてきました。

「なぁんだ,半世紀もかけて,それでは羊頭狗肉のファイナンス理論ではないですか」
そう先走らないでください。ここからが今日の勉強会の面白いところなのですから。

 みなさんのところに導入している,筆者お手製の原価計算ソフト(原価計算工房)に蓄積された膨大なデータを解析して,筆者オリジナルの「公式」に,ようやくたどり着くことができました。結論を示すと図2になります。これを「最適デット(debt=負債)比率」と呼びます。

図2●最適デット比率の公式
図2●最適デット比率の公式

「ずいぶんと,あっさりした式ですねぇ」
あっさりしていますが,図2を導く基礎となる式はかなりの難物です。ベースとなる式は次のとおりです(図3)。

図3●最適デット比率の公式を導く基本式
図3●最適デット比率の公式を導く基本式

 この式を微分して,

とすると,そこから図2の式を導くことができます。

「対数の微分ですか。高校の数学を思い出しますね」
「それにしても図3の式は,どういうことを意味しているのですか?」
それは次のグラフを見てください(図4)。

図4●最適デット比率を導くグラフ

 図4では,銀行借入金曲線と自己資金曲線の上方に,お椀をひっくり返したような曲線APBがあります。これを方程式で表わすと図3の式になります。曲線APBは最大値になる点Pでは傾きが0ですから,図3の式を微分した値が0となります。したがって,次の式が成り立つわけです。

 ここで点Pの真下にある点Rを見てください。原点の0%から点Rまでの幅が図2の最適デット比率

を表わしています。

 図4にある3本の曲線はどうやって描くのか,図4の曲線APBを表す図3の式はどうやって導かれるのか,対数の微分はどうしたらできるのか。その詳細は拙著『戦略ファイナンス』に譲るとして,こうした過程を経て「最適ファイナンス構成論」から「最適資本構成タカダ理論」へと発展させることができます。

 図2にある最適デット比率の最大の特徴は,銀行借入金は自らの支払利子率の高低に依存するのではなく,相手方たる自己資本コスト率の高低に依存する点です。これを「資本構成のタスキ掛け」と呼ぶことにします。

(注)第10回第38回のコラム参照

■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/