NTTデータビジネスコンサルティング
酒井幸良,照井栄介

 CRM(Customer Relationship Management)の取り組みを成功に導くために外せない鉄則が存在する。CRMプロジェクトでは業務設計やシステム構築などの仕組み構築にばかり焦点を当てがちだが,これまで述べてきたように,それだけでは十分な効果を生まない。むしろ,仕組み構築の前後にあるフェーズが大切なのだ。

 今回は,本連載の総まとめとして,CRMの鉄則7カ条を示す(図1)。かつて,CRMがなぜ失敗したのか,その典型的な失敗原因の分析結果を基にしている。同じ過ちを繰り返さないために,役立ててもらいたい。

図1●CRMの「鉄則」
図1●CRMの「鉄則」

失敗事例
 システム部門が,独りよがりのCRMシステムを作ってしまった。その結果,ユーザー部門がCRMシステムを利用せず,無用の長物となっている。その後,システム部門からユーザー部門に働きかけづらくなって,いつしか「CRM」という言葉が社内で禁句になった…。

鉄則1:業務設計やシステム設計にいきなり入ってはいけない。その前に「数年後のありたい姿,目指す姿を明確にして,全関係者の理解を得ること。

失敗事例
 CRMの取り組みを一気に推し進めようと,性急なスケジュールで走り始めた。しかし,いざ始めてみると,営業やコールセンターにとっては新しい業務に移行する準備期間がほとんどなく,変更に伴う作業量も莫大になることが次々と見えてきた。結局,現場から大反対を受けてプロジェクトが頓挫した…。

鉄則2:CRMの取り組みは,会計システムを切り替えるときのように,移行期間を短く限定して,一発で終わらせてはいけない。CRMでは,必要な施策を段階的・継続的に進めることが重要である。そのために,実行可能な作業計画を作り,関係各所からコミットを得ておくこと。

失敗事例
 CRMプロジェクトが新しい顧客セグメンテーションのルールを設計し,営業やマーケティングなどの関係部門に一回説明したが,うまく納得してもらえず,そのままの状態になっていた。そのため,現場ではこれまで通りの独自のセグメンテーション・ルールを使い続け,何も変わらなかった…。

鉄則3:新しい顧客セグメンテーションが「なぜ重要なのか」「なぜその切り口なのか」といった考え方や根拠を分かりやすく,粘り強く説明しなければならない。自社が重要視する顧客セグメントに,関係者全員が納得・合意して取り組めるようにすることが重要。