NTTデータビジネスコンサルティング
酒井幸良,照井栄介

 前回はCRM(Customer Relationship Management)の実力や課題を把握するために,網羅性のある視点や枠組みを通して検証することを強調した。ここではそれらの中から,「顧客セグメンテーション」と「顧客接点における顧客情報利用」に関する2つの事例を紹介する。この2つの能力は,「顧客の重要度に応じてメリハリを利かせた対応をすること」,そして「どの顧客接点やどの担当者であっても,個々の顧客をいつも同じようにもてなすこと」である。業種業態にかかわらず,顧客との関係をより良くするために重要な能力である。

電機メーカーA社◆顧客サービスに“メリハリ”を利かせ業績回復

 世の中の変化や顧客の嗜好(しこう)の変化はますますスピードを上げており,多様化も進んでいる。その中で自社が重要視すべき顧客を明確にして,社内で共有・活用するということは,当たり前のようでいて,その実,うまくできていない企業が多いのではないだろうか。例えば,売り上げ実績の上位を占める顧客の数社が重要であることは誰の目から見ても明らかであっても,その下位グループとなると,「どのように括るのか」という意見が人によって異なり,組織としての方針がそろっていないケースは多い。

 電機メーカーA社は,「大手メーカーとして,すべてのタイプの顧客をあまねくカバーすべき」と考えていた。顧客の分類は「法人/個人」の区別のみで,すべての顧客を重要視するという“全方位営業”を営業方針としていた。売上高や市場シェアが伸びていた時期はそれで良かった。

 だが,需要の鈍化やシェアの低下とともに,これまで通りの全方位営業方針では思うように成果が伸びなくなった。結果,顧客サービス担当者を拡充するどころか,逆に人員削減を余儀なくされていた。

 このような状況下でA社は,「顧客をいくつかのタイプに分類し,サービス品質を最適化する」という“メリハリ戦略”に方針転換することにした。つまり,重要視する一部の顧客にだけリソースを集中し,そうではないその他大勢の顧客に対しては,ある意味“手抜き”をすることにしたのだ。

 まず着手したのは,顧客セグメンテーションの再実施であった。特に法人顧客については,業界と企業規模でいくつかの重点分野を決め,これまでの販売実績と今後の見込み(ポテンシャル)を基にグループ分けした(図1-a)。さらに,個別の顧客ごとに,メイン商品とサブ商品の金額比率による分類を行った。そうしてできた新しい顧客セグメントを社内全体で共有し,それぞれのセグメントごとに販売チャネル・部門を横断した全社的な顧客サービス方針を定めた(図1-b)。

図1●セグメントを定義し,セグメント別の顧客サービス方針を定義した事例
図1●セグメントを定義し,セグメント別の顧客サービス方針を定義した事例

 その後のA社では,重要顧客における売り上げ増大と,それ以外のセグメントにおけるコスト削減効果が功を奏し,業績が回復した。また,顧客サービス方針に関しても,対象顧客を明確にした議論ができるようになった

 以前の全方位一律のサービスをしていた当時には,「新しい問い合わせへの対応は,すべてコールセンターで対応すべきだ」「いや,Web上のセルフサービスのほうがよい」といった,それぞれの見方による偏った議論が行われていた。しかし,顧客セグメントについて全社で合意形成ができた後は,「コールセンター対応を強化するのはこのセグメントにしよう」「よし分かった。そのセグメントはX社とY社とZ社が含まれるセグメントだな。それはコールセンターの担当としよう。A社とB社とC社のいるセグメントへの対応はWebで済ませよう」といった具体的な議論がされるようになった(図2)。

図2●A社の検討の流れと結果
図2●A社の検討の流れと結果

 ここでは顧客セグメンテーションの事例を紹介したが,セグメンテーションのルールは,顧客や自社の変化に合わせて絶えず見直す必要がある。見直しの結果,セグメンテーションのルールは変えず,サービスレベルなどの対応方法だけを変えることもある。いずれにせよ,顧客セグメンテーションを「作りっぱなし」では効果は続かない。

【まとめ】顧客セグメンテーションができているレベルとは?

  • 自社にとって意味のある評価軸が分かっている。
  • 個々の顧客の購買力や購買動機を見極め,自社にとっての「優・良・可」を選別できる。
  • 各顧客セグメントに対するアクション(価格設定・優遇サービス・社内体制など)が明確に決められる。