NTTデータビジネスコンサルティング
酒井幸良,照井栄介

 前回紹介したように,CRM(Customer Relationship Management)に取り組んだ多くの企業のトップは,「CRMが期待通りの結果に至らない」という点を嘆いている。なにしろ,CRMに取り組んだ日本企業で「期待通りの成功」と答えたのは5%未満にすぎないのだ。

 では,なぜ失敗したのだろうか――。CRMという基本的な考え方そのものは正しい。失敗した原因が,その取り組み方にあるのは間違いない。

 そこで,過去に失敗したCRMの事例を詳しく分析してみると,いくつか共通する原因が浮かび上がってきた。「スコープ」「進め方」「定着化活動」という3つの観点で取り組みが不十分だったのである。まずは,それぞれを詳しく見ていこう。

失敗するCRMのワナ1◆スコープが「狭い」

 CRMが失敗する典型パターンの1つは,CRMのスコープが不適切なケースである。CRMでは,企業と顧客との関係を良好に維持したり,さらに強化したりするために,さまざまな活動に取り組む必要があるが,なぜかその大半が実行されていない。ITがからむ経営革新プロジェクトに共通することだが,ITを導入しやすいところ(ソフトウエア製品がサポートする範囲)にしか目が向いていない。

 図1にその例を示す。本来,CRMは顧客戦略や業務改善に深くかかわるものであり,多様なチャネルを通じ,全社を挙げて顧客に働きかけるべき活動である。それなのに,失敗事例ではCRMの取り組みレベルを,既存システムの不満解消だけを目的にした「システム・リプレース」のみに限定している。このような場合,顧客戦略の見直しはもとより,業務改善も行うことができず,効果は限定的だ。

図1●失敗するCRMはスコープが「狭い」
図1●失敗するCRMはスコープが「狭い」

 また,対象チャネルを営業担当者の対面営業だけに絞ってしまっている。コールセンターやWebなど他のチャネルとの間で連携ができず,企業が保有する「顧客情報」という資産を,有効に活用できていない。

 さらに,営業部門単独での取り組みとなっている。営業部門が販売実績や顧客情報をせっせと入力しても,マーケティング・研究開発・サービスなど他の部門がそれらのデータを分析できる仕組みがない。これでは「顧客に対してどのようなアクションを取るべきか」を考えるマインドが全社に行き渡らず,当然ながら顧客戦略や業務改善にかかわるPDCAプロセスが確立されない。

 これらの問題は,すべてCRMのスコープが「局所的・限定的」になっているから起こる。CRMの取り組みの効果を最大化するためには,「きちんと顧客戦略を立案し,その顧客戦略に基づいて業務の見直しやチャネルの連携を考える」といった企業全体にかかわる包括的なスコープが求められる。