文:安達 和夫(東アジア国際ビジネス支援センター〔EABuS〕 事務局長/リサーチネットワーク 代表取締役研究員)

 わが国の電子政府に関する議論の中では「利便性の追求」という言葉がよく聞かれる。他ならぬ筆者も、利便性の追求こそがITの利用価値を高める最大の方策であると確信してきた。今でもその考え方が間違っているとは思っていないが、電子政府先進国であるスウェーデン(国連の電子政府調査でランキング第1位)、デンマーク(同2位)の取り組みを見てみると、むしろ最重要視しているのは「効率性の追求」であるように思われる。

 筆者は今年6月初旬、スウェーデンとデンマークの北欧2カ国を訪問、電子政府についての取り組みについて視察する機会を得た。両国の政府関係者との情報交換を通じて強く感じたのは、ITによって効率性を追求し、世の中の仕組みそのものを変えようとする強い意志であった。

 効率性の追求によって、社会的コストの削減とともに労働人口の有効活用を図ることが可能となる。特に行政機関における人的資源の再配置を積極的に推し進めることで、医療や介護、年金といった社会保障に対する手厚い対応や、環境対策、子育て環境の整備などなど、国民が安心して生活ができるための数多くの施策を実行するための体制を強化することにつながる。むしろ利便性の向上は、ITによって生み出される効率性の成果の一つであると考えるべきかもしれない。

効率性の追求に高い目標を掲げるスウェーデン、デンマーク

 スウェーデンにおいては2008年1月に「The new Swedish action plan for a modern eGovernment」という新たな行動計画を発表し、2010年までに「世界で最もシンプルで効率的な行政機構」を実現するために、中央政府と自治体間で緊密な協力体制を作り上げるとともに、最先端のIT手法を駆使し、市民と企業のニーズから発する行政の事務管理体制の刷新を進めている。オープン規格に基づく単一のプラットフォームを構築し、開かれたインタフェースによる行政へのアクセスの簡略化や手続きの自動化などを目指している。

 デンマークでも、優れたデジタルサービスを提供することが社会の効率性を促進するという認識のもとで、2009年までに企業と行政間の申請届出等の100%オンライン化を計画している。さらに2012年までに、市民向けサービスのすべてをオンラインに統合し、企業・市民に対する「デジタル・セルフ・ソリューション」を完全に開放する方針を掲げている。

 また、行政機関のスリム化にも積極的な目標を掲げている。デンマーク国税庁では、現在1万2000人の従業員を2010年までに62%の7500人まで削減する計画がある。こうした人員の削減は、後述の所得税申告の簡素化のようなITを駆使することでサービス水準を維持し、行政と市民・企業間での“デジタル・セルフ・ソリューション”の提供によって、社会全般の効率化をさらに推進することで実現させる考えだ。