地域WiMAXがいよいよ12月に始動する。いち早く試験サービスを始めるのは嶺南(れいなん)ケーブルネットワーク。2009年4月には月額2300円程度の料金で商用サービスを開始する予定だ。ただし,一部のCATV事業者からは不安を訴える声が聞こえてくる。

 福井県敦賀市でCATVサービスを展開する嶺南ケーブルネットワークは9月9日,地域WiMAX事業で利用する端末の包括免許を取得した。包括免許を取得した事業者は,一つの免許で同一規格の複数の端末を扱える。地域WiMAX事業者で端末の包括免許を取得したのは同社が全国初である。

年内に42の区域で運用開始

 嶺南ケーブルは10月中に敦賀市に3局の基地局を設置し,12月に試験サービスを開始する(図1)。端末にはUSBタイプのデータ通信カード(韓国インフォマーク製)を採用する。商用化は2009年4月の予定で,端末のレンタル料を含めた月額料金は「WiMAXだけ契約する場合で月額2300円程度,CATVインターネット接続サービスのオプションとして契約する場合で月額800円程度」(同社)を考えている。

図1●嶺南ケーブルネットワークが12月に始めるモバイルWiMAXの試験サービス<br>期間中は無償で提供する予定。実験では1M~4Mビット/秒の実効速度が出ているという。
図1●嶺南ケーブルネットワークが12月に始めるモバイルWiMAXの試験サービス
期間中は無償で提供する予定。実験では1M~4Mビット/秒の実効速度が出ているという。
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 嶺南ケーブルに続き,ほかの地域WiMAXも立ち上がる。総務省は6月に全国42の区域でCATV事業者などに地域WiMAXの免許(または予備免許)を交付しており,取得した事業者は6カ月以内に基地局の運用を開始することになっているからだ。実際,島根県松江市の山陰ケーブルビジョンは「試験サービスは2009年1月,商用化は同年4月を予定」とする。岡山県倉敷市の玉島テレビ放送や山口県山口市の山口ケーブルビジョンも,「2009年春から夏にかけて商用化の予定」だ。

 さらに,総務省は事業者の参入促進に乗り出す。地域WiMAXをデジタル・デバイドの解消や地域の活性化につなげたいという思惑からだ。

 現状では,免許/予備免許を交付した区域は42カ所にとどまっている。6月以降も免許の申請を随時受け付けているが,「追加の申請は1件もない」(総務省)という。原因はコストの問題。地域WiMAXへの参入には基地局の敷設などに最低でも数千万円はかかるとされる。実際,嶺南ケーブルは基地局を15局程度まで増設していく予定で,最終的に約2億円の導入コストを見込む。事業として成り立つかどうかの判断が難しいこともあり,多くのCATV事業者が様子見を決め込んでいる。

 そこで総務省は,10月にも「地域WiMAX推進協議会」(仮称)を立ち上げる。同省がオブザーバとなり,CATV事業者や地方自治体などが情報を共有するための場を設ける。参入の手続きや成功事例などを紹介することで新規参入を呼びかける考えだ。

一部の事業者には不安が見え隠れ

 ただ,今後の見通しは必ずしも明るくない。免許/予備免許を取得した一部のCATV事業者からは,ユーザーのニーズに合うサービスを提供できないのではないかと,サービスの立ち上げを不安視する声が出ている。「6カ月以内に基地局の運用を開始しなければならないので,いくつかの課題を抱えたまま,見切り発車せざるを得ない」(あるCATV事業者)というのだ。

 各事業者の意見を総合すると,課題は三つ挙げられる。(1)端末が少ないこと,(2)“白ロム”端末でのサービス利用が難しいこと,(3)ローミングが難しいこと──である。

 現状では,包括免許を取得する際に必要な技術基準適合証明(技適)を受けた製品が少ない。このため,すぐにサービスを始めても,実現できることが限られてしまう。

 例えば自宅や会社などで固定的に利用する場合を考えると,「屋内に電波が届きにくい場合はリピータ(電波を中継する装置)の利用を検討しなければならない」(あるCATV事業者)。屋内のルーターや無線LAN経由でWiMAXに接続したいケースもあるだろう。ところが,「いま手に入るのはUSBタイプの端末くらいで,ほかにはほとんど選択肢がない。これでは用途が限られてしまう」(同)。

 しかも,実験的に事業を進めている関係で,当初はサービス提供エリアを広げにくい。各事業者が総務省に申請した基地局数を見ると,ほとんどが1局,多いところで2~3局である。「全国で利用できるのならまだしも,基地局から2~3km四方のエリアだけでモバイル利用と言ってもユーザーに受け入れられない」(あるCATV事業者)。

白ロム端末はすぐには使えない

 量販店などで販売される白ロム端末をすぐには使えない点も不安材料の一つだ。白ロム端末とは,契約情報を書き込んでいない状態の端末のこと。ユーザーにとっては,好みの端末を購入し,そのままWiMAXに接続できる方がうれしい。これを実現するには,オンラインで端末認証(アクティベーション)する仕組みが必要になる。

写真1●UQコミュニケーションズは2009年2月の試験サービスに向けて基地局の設置を開始<br>2009年2月までに東京23区,横浜,川崎のエリアで600局以上設置する予定。既に100局以上設置したという。
写真1●UQコミュニケーションズは2009年2月の試験サービスに向けて基地局の設置を開始
2009年2月までに東京23区,横浜,川崎のエリアで600局以上設置する予定。既に100局以上設置したという。
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 実際,2009年2月に全国バンドの試験サービス開始を予定するUQコミュニケーションズは,白ロム端末から接続できるようにする。同社は既に100局以上の基地局を敷設済み(写真1)。これと並行して,モバイルWiMAX経由でユーザー情報を登録する仕組みを導入しようとしている。

 ところが,地域WiMAX事業者がこの端末認証方式を採用するのは難しい。「対応装置がまだ市販されていない」(業界関係者)からだ。UQコミュニケーションズが採用すると言っても,これは世界に先駆けた取り組みで,地域WiMAXの分まではメーカー側の準備が追いつかない。当面は,地域WiMAX事業者各社が用意した専用端末(黒ロム端末)を使うことになる。

 対応製品の登場まで導入を延期したいところだが,そうなると「6カ月以内に運用を開始する」という決まりがネックになる。もちろん,将来はファームウエアのバージョンアップで対応できる可能性があるが,事業者はサービス開始に踏み切りづらい。

ローミングのメドも立たず

 三つめの課題は,UQコミュニケーションズとローミングできるのかということだ。UQコミュニケーションズによると「地域WiMAX事業者とのローミングはまだ検討していないが,WiMAXフォーラムに準拠した製品であれば問題ないと考えている」という。だが,ローミングのためには「あらかじめホーム・エージェントや認証サーバーなどのCSN(connectivity service network)を事業者側で整備しておかなければならない。それには相当なコストがかかるので,それぞれが用意するのは非現実的だ」(業界関係者)。この問題に関しては地域WiMAX事業者でCSNを共有してUQコミュニケーションズとまとめて接続する案が出ているが,全事業者でうまくまとまるかどうかは微妙である。

 一つ望みがあるとすれば,前述した地域WiMAX推進協議会の動き。協議会では,端末認証方式やローミングといった課題についても解決に向けた議論を進める。うまく機能すれば,既に免許を取得している事業者の課題の解決を早められるかもしれない。今後の協議会の動きが一つのカギになりそうだ。