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[名物記者のトレンド解説]大問題につながる“小さな予兆”を見逃すな---日経情報ストラテジー副編集長「経営上の大問題が起こる前には,必ず先行するトラブルがあるので,それらを見逃さず,経営に生かしていく必要がある」---。日経情報ストラテジー副編集長の井上健太郎氏は2008年10月16日,「ITpro EXPO 2008 Autumn名物記者によるトレンド解説」で「ヒヤリハットとモラルに着目し,危機管理の仕組み作りを」と題した講演でこう語った。 講演の冒頭,井上氏は「ハインリッヒの法則」を紹介した。「1件の重大事故が起こる陰には29件の軽い事故があり,さらにその陰には,事故に至らないトラブルが300件起こっている。これは実調査に基づいた法則である」と述べ,実際に起こった事件・事故をいくつか挙げた。 例えば,2005年4月に起こったJR福知山線脱線事故。この事故が起こる前には,過密ダイヤによって速度違反やオーバーランが何度も起こっていた。2006年6月に起こったシンドラーエレベータ製エレベータの人身事故(16歳の高校生がドアに挟まれ死亡)でも,その陰で同社製エレベータのトラブルが頻発していたことが知られている。また,2004年3月に発生した六本木ヒルズ森タワーの自動回転ドア事故(6歳児が死亡)でも,その3カ月前に子供が大ケガを負う事故があり,それ以前にも多数のトラブルが発生していたにもかかわらず,森ビルと回転ドア・メーカーが安全対策を怠っていたとして,2社に対する刑事訴訟で有罪となった。 重大事故を防ぐリスク・マネジメントでの課題このように,重大事故・事件が起こる前には,その予兆となる小さなトラブルが必ずあり,それに気づけば重大事件・事故を未然に防ぐための対策を打てるだろう。しかし,「こうしたリスク・マネジメントには,いくつかの困難がある」と井上氏は指摘する。 まず,「情報収集の壁」があるという。現場が悪い情報を上位組織に報告すると,経営層は「一体,現場は何をやっているんだ!」と部下を叱責しがちになり,経営層まで情報が的確に伝わらないのだ。また,森ビルの例では,事故情報を集める仕組みは持っていたが,「何を事故として経営層に報告するか」という基準がなかった。そのため,森ビルの経営層は大事故以前に起こっていたトラブルを知らず,事故情報を集める仕組みが機能していなかった。井上氏は,「上位組織に報告すべきか否かを現場に判断させず,何でも報告させるようにしなければならない」と述べた。 リスク・マネジメントにおける別の困難として,「トラブルの芽に気づく人がいないことがある」という点を挙げた。保険金不払い事件で金融庁から業務停止命令を受けた三井住友海上火災保険では,顧客からのクレームをデータベース化する仕組みがあった。経営層は,クレームの状況を見ようと思えば,いつでも見られたわけだ。さらに,経営企画部門がクレームを分析して経営層に報告するスキームもあった。だが,保険金不払いの問題については,経営層にほとんど報告していなかった。 「いくらクレームを集めても,『いつか大事件になるかもしれない』と分析・報告する人がいないと,クレーム情報を生かせない」と井上氏は指摘する。ただし,「クレームの中から大事件につながるかもしれないものを見つけて分析するスキルは,属人的なものである」とも話す。このような課題を克服する例として,森ビルでは,子供の事故に詳しい専門家に相談するなど,外部の人に意見を求めているという。 経営層の側にも改善すべきことがある。「経営層がきちんとトラブルに関与していないこと」である。1つの部門に閉じたトラブルならその部門内でなんとか解決するものだが,「複数の組織がからむトラブルでは,複数の組織が協力しないと解決は困難だ。経営層が関係組織に指示して対策を打たないと問題が放置され,いずれ大問題に発展しかねない」(井上氏)と注意を促した。 これらの困難は,「トラブルやクレームに対するナレッジをどう扱うべきか」という問題と密接に関係している。IT面での対策として,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用や,クレーム・データベースの内容をテキスト・マイニングで検索するような仕組みが検討されている。井上氏はその事例として,「同じ商品に1日3〜4件のクレームが来たら,自動的に経営層にアラートを送る」というアサヒビールの取り組みを紹介した。 連載新着連載目次へ >>
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