ここ数年の間にモバイル分野でもキー・プレーヤとして一気に集めるようになった米グーグルと米アップル。本書は,この2社が業界に与える影響を解説した。このところ両社を取り上げた書籍が多数出版されているが,携帯電話関連の記者会見や国内外の主要イベントにはほぼ顔を出している著者が,会見および取材を通じて得たキーパーソンのコメントを丹念に集めたのが本書の特徴だ。
本書を読みつつ,アップルとグーグルが関心を集める理由を改めて考えてみた。著者が書いているように,製品そのものの魅力や既存の慣習を崩すビジネスモデルを持ち込んだことはもちろん大きい。
これ以外の理由として,自らの体験を自信を持って話す“語り部”の存在が大きいのではないか。アップルには,スティーブ・ジョブズCEOという今さら説明するまでもないカリスマ経営者がいる。「こんなものがあったらいいと思わないか。だから作ったんだ」と語りかける彼のプレゼンテーションには思わず引き付けられる。iPhoneについても2007年1月の初代製品発表時に「携帯電話を再定義する」と宣言,2008年7月には2世代目となる「iPhone 3G」を投入したほか,新たな機能を追加し続けている。
グーグルも同様だ。グーグルが開発した携帯端末向けのソフトウエア基盤「Android」の責任者であるアンディ・ルービン氏は「インターネットの上で起こっている革新的なサービスを,パソコンだけでなくモバイル環境からでも体験できるようにしたい」と常々語っている。
携帯電話の構成要素のうちソフトウエアの比重が増し,ネット関連のサービスとは切り離せなくなっている。こうなると,携帯電話の操作で得られる“体験”を自らの言葉で語ることはますます重要になってくるだろう。
体験を語る,という点については,本書で著者が「自ら築き上げたビジネスモデルに自信がなくなってしまったのか」(204ページ)と指摘しているように,筆者自身も日本の関係者が自信をもって体験を語る場面が少なくなっていると感じる。
海外のモバイル関係者との取材を通じて筆者が常日頃感じることは,日本のモバイル市場に対する高い関心と敬意である。高齢者向けに音声をはっきり聞き取れるようにする技術や「おサイフケータイ」への興味は尽きず,アップルによるソフトウエア流通プラットフォーム「App Store」は,日本の通信事業者によるコンテンツ課金モデルによく似ている。これ以外にも日本の成功モデルをよく研究して作り出したと思われるサービスモデルや技術は,枚挙にいとまがない。胸を張って体験を語り,“輸出”できるものはまだまだあるのではないかと思う。
グーグルvsアップル ケータイ世界大戦
石川 温著
技術評論社発行
1554円(税込)