新会社を創っていく時、創業者は何を考え、どう行動するのだろうか。会社のビジョンや社名の決定、資本金の準備、社員採用、ビジネスモデルや管理体制の確立、オフィスと情報システムの整備など、やるべきことはたくさんある。「ビジネスとテクノロジーのアグリゲーター」という新コンセプトの企業、シグマクシスを2008年5月に設立した倉重英樹が、10月からの本格始業に向けて日々思うことや活動の様子を、写真とともに綴っていく。 |
前回で、「成長モデルへの挑戦」と題した1枚の絵を掲載した。編集者の判断で、前回は絵の意味を説明した文章の掲載を見合わせたので、ここで解説しようと思う。

この絵は、営業担当者の行動様式を4つのパターンに整理したものである。それぞれの様式に「失速モデル」「抑制モデル」「対応モデル」「成長モデル」と名前をつけてある。通常、営業担当者が扱う自社の商品・サービスとお客様の期待には、差がある。この差を見た時、営業担当者がどのように行動するか。それによって、4つのモデルに分類できる。
営業担当者の行動によって、事業はどう変わっていくか
一番左の「失速モデル」の営業担当者は、お客様の期待と自社の商品・サービスに差があっても「何もしない」。つまり、自社の商品・サービスをそのまま、お客様に売り込もうとする。悪い言葉を使うなら、「押し込みセールス」である。お客様の期待に応えられないわけだから、事業は当然、失速していく。
ただ、業種業界によってはこのモデルで企業が存続することもある。それは多くの場合、規制が強い業種である。お客様は期待に応える商品・サービスではなくても、「規制がある以上、こういうものだ」と半ばあきらめて購買することになるから、その業種の企業は失速しない。
左から2番目の「抑制モデル」の営業担当者は、お客様を「説得する」。「当社の商品の機能ではこれしかできません。でも実際はこれで十分ではないですか?」といったように説き伏せるのだ。説得することにより、お客様の期待を抑制し、自社の商品・サービスに合わせていく。
説得に応じたお客様は、本当は期待値を下回る商品・サービスであっても、買ってくれる。ただし「期待に合致していないのだから」と言われ、値引きさせられる結果になることも多い。したがって、事業が大きく失速することもないが、大きく伸びることもない。お客様の期待に応えられる競合会社が出現したら、あっと言う間に失速するだろう。
右から2番目の「対応モデル」の営業担当者は、お客様の期待になんとしても「対応」しようとする。自社の商品・サービスに欠けている点、足りない点を見極め、補い、お客様の期待に応えようと努力する。営業担当者一人ではこうしたことはできない。商品開発部門や工場、サービスを担当する部門、契約を管理するスタッフ部門など、社内の様々な部門にかけあう必要がある。さらに上司や役員などマネジメントにも進言し、彼らに動いてもらうこともある。すなわち、「社内全体を動かす」行動をとる。
一番右の「成長モデル」は理想を示したものである。自社の商品・サービスが常にお客様の期待を上回っている状態など、そう簡単には作れるものではないが、企業が目指すべき姿はここだと思う。ただ、成長モデルに挑戦するには、前提として、組織全体がそもそも「対応モデル」体質で動いている必要がある。「対応モデル」体質の組織は、常にお客様の期待がどこにあるのかを正確に把握し、それに組織として応え続けている。
こうした活動を繰り返していると、おのずとお客様の抱える課題、場合によってはお客様自身ですら把握できていない課題まで見えてくる。その課題を解決できるように自社の能力を結集、拡張し、商品・サービスとして提案し、結果を出すことができれば、まさしくイノベーションで「価値を売る」ことができるようになる。“Value Business”とは、このことだ。