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第23回 製造物責任法(PL法) PL法がカバーする「製造物」の範囲とは

2008/10/30
出典:日経ITプロフェッショナル 2004年4月号pp.128-129
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

製造物責任法(PL法)は,製造物の欠陥に対するメーカー側の責任を明確にした法律である。利用者が,製品に欠陥があることを証明するだけで,メーカーの責任を問える。ハード/ソフトを開発・販売するITベンダーにとっても,重要な法律だ。

 1988年に建築/不動産会社,太子建設工業の事務所内でテレビの後部から出火して事務所内部が全焼した。そこで太子建設工業は,テレビメーカーの松下電器産業(2008年,パナソニックに商号変更)に対し,「製造物責任」,「債務不履行責任」,「不法行為責任」を理由に損害賠償請求訴訟を起こした。

 裁判所は,「火災はテレビ本体の発火によるものである」と認定したうえで,次のような判断を示した。

(1)テレビのような工業製品の場合,メーカーは製品の設計・製造・流通の過程で安全性を確保すべき高度な注意義務を負っている。

(2)メーカーが安全性に欠ける製品を販売し,それによって利用者が損害を被った場合は,メーカーは利用者に対して損害を賠償する責任,すなわち「製造物責任」を負う。

(3)テレビを利用中に発煙・発火したことは「不相当な危険」と評価すべきであり,テレビには欠陥が認められる。

(4)欠陥のあるテレビが販売されてから火災発生まで8カ月しか経過しておらず,その間,誰もテレビを修理・改造していないことから,欠陥原因は松下電器産業がテレビの販売を始めた時点で,すでに存在していたと認められる。

(5)欠陥原因のある製品を販売したことについて,松下電器産業には過失があったと認められる。

 これに基づいて,裁判所は松下電器産業に対し,441万7000円を太子建設工業に支払うよう命令した。(大阪地方裁判所1994年3月29日判決,判例時報1493号29頁)

 1994年に制定された製造物責任法(PL法)は,欠陥製品に対するメーカーの責任を厳格化した法律である。では,PL法の対象となる「製造物」とは具体的には何を指すのだろうか。コンピュータや周辺機器,パッケージ・ソフト,受託開発ソフトは,すべてPL法の対象になるのだろうか。今回は,PL法が定める「欠陥」や「製造物」の意味,法制定の経緯など,PL法の基礎について解説したい。

メーカーの責任を厳格化

 市民社会の「法原則」の1つに,「不注意で他人の権利を侵害し損害を与えた者は,その損害を賠償しなければならない」という,「過失責任の原則」がある。被害者が,加害者の故意または過失の行為によって損害を被ったことを証明すれば,賠償請求が認められるわけだ。

 しかし設計情報や製造工程の情報は通常公開されないため,工業製品については,メーカーの過失によって被害が生じたことを利用者が証明するのは,極めて困難である。そこで,米国では60年代に,欧州では85年頃までに,「利用者が商品の欠陥を証明しさえすればメーカーの過失が推定されるため,メーカーの過失を証明する必要はない」という考えに基づき,メーカーに「製造物責任」を課すようになった。「被害者が加害者の過失を証明する必要がない」という意味では,製造物責任はメーカーにとって非常に厳しい。このため,製造物責任を「厳格責任」と呼ぶこともある。

 日本でも製造物責任法が制定される以前から,裁判所はメーカーに対する厳格責任を認めていた。例えば,PCBによる中毒事件「カネミ油症事件」の判決(福岡地裁1977年)や整腸剤キノホルムによる中毒事件「スモン病事件」の判決(金沢地裁1978年),クロロキン薬害事件判決(東京地裁1982年)などである。冒頭で示した94年3月の判決も,欠陥の存在からメーカーの過失を推定することにより,メーカーに厳格責任を課したものだ。

 もっとも判例だけでは,製造物責任の基準は明確とは言えない。このため94年6月に製造物責任法を制定。95年7月から施行された。

プログラムは対象外

 この法律の目的は,「欠陥製造物が原因で起こった被害については,メーカーの過失の有無にかかわらずメーカーに損害賠償責任を負わせて被害者を保護する」ことにある(図1)。ここで欠陥とは,「製造物が通常備えているべき安全性を欠いていること」を指し,(1)設計上の欠陥(設計段階で安全性を配慮しなかったために起こった欠陥),(2)製造上の欠陥(製造段階の原因で起こった欠陥),(3)指示・警告上の欠陥(適切な情報を利用者に与えなかった場合)の3 種類がある。

図1●製造物責任法の条文(一部)
[画像のクリックで拡大表示]

 欠陥は「製品を出荷した時点で存在(潜在)していたもの」に限る。出荷後の製品の(メーカー以外による)変更または損傷により生じた事故は,メーカーの責任ではない。メーカーが製品出荷時の科学技術水準から製品の欠陥を認識できない場合も免責される。これを「開発危険の抗弁」と呼ぶ(4条1号,図1参照)。

 また,PL法が定義する製造物とは,「製造または加工された動産(不動産以外の有形の財産)」のことだ(2条1項,図1参照)。当然,コンピュータや周辺機器,情報家電はすべて製造物である。

 では,データやプログラムはどうだろう。これらは「無形物」なので,PL法で定義する製造物とはみなされない。受託開発したシステムの不具合でユーザー企業が被害を被っても,PL法の対象外ということになる。コンピュータにプリインストールされたOSやアプリケーション・ソフトも,PL法の対象とはならないとする解釈が一般的である。こうしたソフトは利用者に選択の余地が残されているため,製造物であるコンピュータの一部とはみなせないからだ。ただし,組み込みソフトについては,機器に組み込まれた“部品”とみなされるためPL法の対象となる。

 製造物責任法により,利用者はメーカーの過失を立証する代わりに,製品の欠陥を立証すればよいことになった。しかし,「損害の発生」や「欠陥と損害との相当因果関係」は立証する必要があることに注意したい。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事
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