ボブ・ケリー氏
ボブ・ケリー氏
米マイクロソフト
コーポレートバイスプレジデント
インフラストラクチャ サーバー マーケティング担当

 「マイクロソフトは『AND型』。自社所有とクラウド、どちらのタイプのシステムも提供できる」。米マイクロソフトでサーバー製品や開発環境のマーケティングを統括するボブ・ケリー コーポレート副社長は、こう強調する。競合他社のほとんどは、自社所有かクラウドかの、いずれか一方しか提供できない「OR型」だと一蹴した。「知識」に基づく自動運用を目指すという次世代ビジョン「Dynamic IT」によって、クラウドと継ぎ目のないIT基盤を実現するという。
(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ、写真は後藤究)



マイクロソフトは、クラウドコンピューティングが情報システムの開発やIT業界のあり方に対し、どんな変化をもたらすと考えているのか。

 最も大きな変化は、システム構築のスピードだ。クラウドはサービスの集まりと見なせる。そこに対し当社が、クラウド上のサービスを組み合わせてシステムを開発するための基盤を提供するからだ。

 クラウドといっても、従来と異なるスキルが必要になるわけではない。.NET技術を基にする。ユーザー企業やパートナー企業は、現在のスキルをクラウドでも生かせることになる。

 現在、当社が具体的なクラウドサービスとして発表しているのが、「SQL Server Data Services(SSDS)」だ。これは、インターネット上で永続的なデータ管理機能を提供する、シンプルなサービスであり、クラウドでは難しかった“ステートフルな”(処理やデータの状態を保持できる)データ管理を実現する。

 SSDSは当社が考えるクラウド基盤全体からすると、ほんの始まりに過ぎない。クラウドサービスの詳細は、2008年10月末に開催する「PDC 2008」で明らかにする。

米アマゾン・ドットコムは「EC2」やストレージサービスの「Simple DB」といったクラウド基盤をすでに提供している。各サービスの機能を補完したり拡張したりするパートナー企業も増えている。

 ベンダーの戦略をどうみるかの違いに過ぎない。クラウド側から見れば確かにアマゾンが先行しているが、“オンプレミス”(自社で所有する)の側では明らかに当社が先行している。

 アマゾンや米グーグルのWebサービスと比べられることが多いが、彼らが提供するのはクラウドのサービスのみだ。当社は両方、つまりオンプレミスとクラウドのそれぞれを継ぎ目なく利用できる「AND」の選択肢を提供できる。どちらか一方の「OR」ではない。

 パートナー企業との協業を促す方策も、グーグルやアマゾンにはない特徴だ。当社のクラウド基盤を利用するパートナー企業との協業施策を2008年7月に発表した。パートナー企業が顧客を獲得するごとに、1年目は売り上げの12%、2年目以降は6%を還元する。売り上げの共有化を実現する。

 これはグーグルにはないモデルだ。アマゾンは計算能力を提供するだけだから、これもまた同様なモデルは持っていない。当社は常にパートナー企業と協業してきた。クラウドでもそれは変わらない。パートナー企業の持つソフト製品も顧客に提供できるようになる。

マイクロソフトは今、「Dynamic IT」というビジョンを提唱しているが、クラウドとの関係は。

 Dynamic ITは、当社が掲げるIT基盤の理想像であり、その実現に向けた戦略である。IT基盤を構成するソフトやハードの構成変更や運用、サービスレベルの維持や障害の予防といった作業を自動化する。人手による運用を減らすことでIT基盤の複雑さを低減し、変化に対する俊敏性を高めるという考え方である。

 このDynamic ITの対象は、ユーザー企業が自社で所有する、オンプレミスなシステムに限るものではない。インターネットを介したクラウド上のサービスを利用する場合も、同一のアーキテクチャでカバーする。オンプレミスのIT基盤向けの知識をクラウドのサービスにも利用することで、同一のポリシー、同一の運用手法を適用できるようにするわけだ。

 2008年には、Dynamic ITの中核を成す3つの製品を同時に市場へ投入した。Windows Server 2008、SQL Server 2008、Visual Studio 2008である。一連の製品は相互に関連性を持って開発している。これにより、IT基盤の設計から開発、運用に至るサイクル、つまりライフサイクル全体を通じて一貫した運用管理を実現する。