ディスコの西村豊サポート本部情報システムグループリーダー兼サポートチームリーダー

 「IT(情報技術)業界の仕事は3Kだ、とよく言われる。でも、ある雑誌の調査を見たら、他業種よりも働く人のモチベーションが高いくらいだった。確かに営業部門や製造部門の人よりは光が当たりにくいと思うが、IT部門の仕事は面白い。次々と登場する新しいITの中から適切なものを選んで、それを現場に導入して、効果を目の当たりにできるからだ」

 笑顔でこう語るのは、半導体業界向け精密加工装置の大手メーカー、ディスコでサポート本部情報システムグループリーダー兼サポートチームリーダーを務める西村豊氏だ。

 日本の多くの企業がERP(統合基幹業務)パッケージの導入に踏み切る最近のトレンドに反し、同社はおよそ2年かけて自前でERPソフトウエアを開発した。2007年から本稼働させている。以前の基幹業務システムは、主に海外メーカーのパッケージ製品で構築していた。

 今回、自社開発に踏み切った背景には、パッケージ・ソフトに対する大きな不満があったという。「機能面の不備やバグなどがあって日本のインテグレーターに問い合わせても『対処できない』と、メーカーの日本法人、メーカーの海外本社と質問が伝達され、結局、『次のバージョンアップで対応します』と言われることが多かった。それなのにバージョンアップは有料で、その金額は初期導入価格とさほど変わらない。だったら『自分たちでできるところは自分たちで開発したほうが、障害対応のスピードもコストも安くできる』と、社長と一緒に議論して判断した」(西村氏)

 ディスコがERPソフトウエアの自社開発と導入に成功したのは、経営陣と現場の双方に理解があったおかげだ。パッケージを使わずにあえてソフトを自社開発するには経営陣がぶれない意思を示し続けてくれることが不可欠だったし、自社ソフトの機能に当初は制約があったことを現場が許容してくれたことも欠かせなかった。その代わり、パッケージを使った場合に比べてバグをつぶすスピードは格段に早くなった。

 ディスコのIT活用のユニークさは、メール・システムにも垣間見ることができる。同社のメール・システムは「ロータスノーツ」で構築してあるが、容量が大きなファイルを添付したメールを送ろうとすると、「送信に○万円かかります」といった注意文が画面に表示されるようにカスタマイズされている。

 ディスコは様々な経費がひと目で分かる独自の管理会計手法を導入し、社員一人ひとりまで採算意識を徹底させている。「自社のやり方に合うようにITを使いこなすのがうちの文化だ」と西村氏は語る。

Profile of CIO

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・ERPシステムを自社で開発するなど最近はITベンダー各社との付き合いが薄いこともあって、取り立てて不満はありません。でも、フリーソフトがどんどん世の中に出てきているので、たくさんあるフリーソフトの中から最適な組み合わせを選んで多様なソリューションを提供できるITベンダーがもっと増えてくるといいですね。「このソフトとこのソフトウエアの組み合わせならここまでできます」といった情報がほしいと思います

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・コーチ・トゥエンティワン(東京・千代田区)が毎週発行しているメールマガジンです。組織を運営するうえで、どうやってメンバーのやる気を引き出し、達成感や楽しさを感じさせたらいいかについて、とても参考になります

・ブロックス(東京・新宿区)が定期的に発刊している経営品質が優れた企業を紹介するビデオ「DOIT!」を使って、管理職などを集めて自主的に勉強会を開いています。この勉強会の輪を徐々に広げていくつもりです。DOIT!シリーズのビデオの中で特に良かったのは、BAGZYという美容室を紹介したものと、川越胃腸病院を紹介したもの。ビデオに登場する人たちがみんな、楽しくやりがいを感じながら働いている様子がよく分かります

◆ストレス解消法
・休みの日はなるべく頭を仕事から切り替えるようにしています。それで約3年前に波乗り(サーフィン)を始めました。子供と一緒に行く時もあります。サーフィンはいろんな目的が生まれていいですね。例えば今度の週末はサーフショップに行ってボードを物色してみよう、ウェットスーツを買い替えよう、とか、今度の週末はあの海に行こう、次の休みにはハワイに行こう、といった具合です。サーフィンでは沖に出るためにパドリングをする必要があるので、腕力を鍛えなければいけないと感じて、本社内にあるジムにも頻繁に通うようになりました。テイクオフできた時の気持ちよさは素晴らしいですね。波の状態は毎回違うので、毎回何か失敗して、それを乗り越えることにもやりがいを感じます

・IT部門のメンバーにも、ゴルフでも何でもいいから仕事以外にも熱中できるものを持ったほうがいい、と伝えています。仕事はダラダラと続けるよりもメリハリをつけてやったほうがよいと思うからです。IT部門では毎月1回、各チームの仕事の状況を報告する会議を設けていますが、この会議の時に仕事とは直接関係のない近況をみんなに話してもらう時間もとっています。仲間を知ることができるしみんなに説明する力を身につけることもできます