生産現場で鍛えた業務改革手法のTPM(Total Productive Maintenance)を2006年から情報システム部門に導入。ITのコスト効率向上を狙ってスタートしたTPM活動が,やがてコンピュータ・センターやオフィスの省電力化,熱対策の取り組みへと広がった。単発的な対策ではなく,問題の発生原因を掘り下げ,電力消費のムダを徹底してなくす粘り腰が,サントリー流のグリーンITだ。今後,環境負荷の削減にITがどれほど貢献したかを評価する指標を作り,活動を進化させていく。

グリーンITに取り組み始めたきっかけはどのようなものでしたか。

 我々の情報システム部門では,2006年後半からTPM手法のアプローチに従って業務改善活動に取り組んできました。もともとは生産部門が品質の安全確保や生産効率の向上を目的としてTPM活動を行っていましたが,私の前任者が同様のやり方を情報システム部門に取り入れたのです。最初はIT投資のコスト効率を向上させることが狙いでしたが,次第に消費電力の削減や熱対策といった活動に広がっていきました。

 当社では,2005年に全社の中期計画を策定しています。これを受けて情報システム部門では「パフォーマンスアップ30」という,業務成果とコスト効率を30%向上させるための中期計画を作りました。それを実現するためにTPMのアプローチを活用したのです。

 TPMの特徴は,ロスを構造化して発生源を特定し,ロスをなくすための対策を打つという一連の活動を継続的に行っていくところにあります。もちろん中には,なかなかゼロにできないロスもあります。それでもあらゆるロスを構造化して,優先順位を付けて一つずつつぶしていくことが重要です。

生産現場で鍛えたロスゼロ化のためのマネジメント手法を情報システムに導入したわけですね。実際にはどのように進めていったのですか。

加藤 直樹(かとう なおき)氏
写真:福島 正造

 受発注システムのサーバーのロス解析を例にとって説明しましょう。システムロスには,計画停止ロス,故障や段取りの不手際などによる停止ロス,不良ロス,冗長設計ロスなどがあります。さらに,CPUの余剰能力によるロスやレスポンス悪化によるロスもある。これらのロス(停止時間)を,操業時間から引いていきます。また,ロスを金額に換算して,ハードウエア購入額と維持コストの総額から引く方法もあります。

 いずれにせよ,最終的に10%の時間なり金額しか残らないのであれば,そのシステムには投資額の10%の価値しかないことになります。

 実際には,TPM活動によってロスの発生源を見つけ,対策を打つことで30%のコスト効率向上という目標を達成することができました。

 TPMは管理者だけではなく,社員全員が取り組んでいる業務改善活動です。TPMは,(1)改善テーマおよび目標の設定,(2)改善計画の立案,(3)現象観察,原因解析および対策立案・評価,(4)改善の実施,(5)効果の確認,(6)歯止め,(7)水平展開─という7ステップで実施します。新入社員のうちから,このやり方をしっかり身に付けていくことが求められるのです。

 例えば,システム障害が起こったとします。その直接的な原因を探るだけではなく,障害が起こった背景にあるものを「なぜ,なに」式にどんどん掘り下げて考えていきます。発生点だけの対症療法だけではなく,発生源に近いところの対策ができるようする。情報システム部門では,こうした改善活動を続けているうちに,パソコンやソフトウエア,ネットワーク,さらにはコンピュータ・センターの電力ロスの構造を分析してみようということになりました。