伊勢 幸一(いせ こういち) ライブドア ネットワーク事業部 執行役員

前編では,パソコンの「ディスクOFF」と「ディスプレイOFF」を実行した場合の省電力度を検証し,ディスクOFFはあまり効果がないものの,ディスプレイOFFには一定の省電力効果があることが分かった。後編では,パソコンの「スタンバイ」と「休止状態」を検証する。

実験4 スタンバイ:
消費電力はほぼゼロに

 スタンバイとは,システムやアプリケーションのプロセス状態が保存されているメモリーへの電力供給は継続し,そのほかのデバイスに対する電力供給をOFFにするモードである。再使用する際,どれかのキーを押すとすぐに復帰する。ただし,スタンバイ中,不意に停電などによって電源が落ちると,メモリー内の情報が消失してしまうため,安全性には欠ける。

 コンピュータが最も電力を消費するのは,激しくディスクにアクセスし,CPUに負荷をかけている状態である。したがって,スタンバイのようにCPUを動作させず,メモリーの状態を維持するだけの電力は微少だ。

 スタンバイ時の消費電力は,デスクトップPCがすべての機種で0.01kWh,ノートPCが同じく0.00kWhとなった(図1)。ノートPCにもメモリー状態を維持するための微少な電流が流れているはずだが,ワットチェッカーの最小分解能未満だったため,計測されなかったと考えられる。

図1●「スタンバイ」にした場合の消費電力
図1●「スタンバイ」にした場合の消費電力

実験5 休止状態:
微弱な電流は残る

 休止状態とは,システムをシャットダウンさせずに,メモリーの状態をディスクに保存し,メモリーを含むすべての電源をOFFにするモードである。再起動はキー入力ではなく,電源スイッチをONにする。通常のシステム・ブートとは異なり,ハードウエアの自己診断後,システム起動シーケンスを省略し,ディスクに保存されているメモリー情報をメモリーに読み出して起動する。このため,OSの初期化,常駐プログラムの再起動,ユーザー環境の設定といった処理は行わない。

 スタンバイと休止状態との違いは,メモリー・ユニットに電力を供給するかしないかである。スタイバイ時には電力を供給するが,休止状態のときには供給しない。

 結果は,デスクトップPC,ノートPCとも,スタンバイ時と同じ値を示した。消費電力は,デスクトップPCがすべての機種で0.01kWh,ノートPCが同じく0.00kWhである(図2)。

図2●「休止状態」にした場合の消費電力
図2●「休止状態」にした場合の消費電力

 不思議に思われるのは,デスクトップPCの場合,休止状態でも0.01kWh程度の電力を消費しているということだ。それぞれのモードで電流値を見ると0.07A程度が消費されている。

 ノートPCの計測結果でも,消費電力は0.00kWhとなっているが,電流は0.05Aほど流れている。試しにこの状態でワットチェッカーから電源ケーブルを抜いてみると,電流値は0Aになる。これは,たとえパソコンの電源をOFFにしていたとしても,電源ケーブルをコンセントに差し込んでいる限り,パソコンは微量な電力を消費し続けているということを示している。

 パソコンの内蔵電源は,一次側の交流電源を変圧・整流・平滑化して,二次側に直流電源を提供する。一般的にパソコンの電源スイッチは一次側の交流電源入力部ではなく,二次側の直流電源出力部にセットされている。したがって,パソコンの電源スイッチをOFFにしていたとしても,電源回路とスイッチ回路には交流電圧が掛けられている。その電源回路とスイッチ回路の微少な内部インピーダンスによって,ハードウエアの設計にもよるが,わずかながら電力が消費されているのである。