先日,3D(3次元)映画を見た。鮮明なカラー,奥行きを感じさせる映像,結構,「見られる」ものだと感心した。確かに実際に立体物を肉眼に見るのとは違うが,3D映像を見直した。

 3D映画を見たのは,Dolby Japanが開催した「3Dデジタル・シネマ体験試写会」。IMAGICAの第2試写室で開催された。上映されたのは「スター・ウォーズ エピソード4 新たなる野望」や「Fly Me to the Moon」「カンフー・パンダ」などの一部,「センター・オブ・ジ・アース 予告編」である。鮮明な映像のなか,遠近感がはっきりと表現されていた。特にFly Me to the Moonでは,登場キャラクタがスクリーンから飛び出し,客席まで飛んできた。目の前までウロウロするため,「ぶつかってくるのではないか」と緊張感が走ったほどである。

赤と青のセロハンは古い?

 3Dといえば,“赤と青のセロハン”をイメージする人が多いだろう。片方に赤いセロハン,もう片方に青いセロハンを張ったメガネをかけて見る方式である。この方式はアナグリフと呼ばれ,印刷物にも利用できる手軽な技術である。

 人間が3D,つまり立体と感じるのは,左右の目で異なる像を見ており,そのときの眼球の角度や水晶体の調整具合などの情報から脳が奥行きを感じているからである。左右の目の間隔は6cm強であるという。これと同じ状況を作り出せれば,3Dに見えるというわけだ。

 アナグリフでは,青と赤のフィルタを使って左右の目に別々の像を見せる。実現が容易で通常のテレビでも3Dを楽しめるという長所がある。その半面,色の表現が難しいという短所がある。方式上,基本は白黒である。そのなかで工夫してカラー化しているため,若干色がにじみがちになる。

 筆者自身,「スパイキッズ3-D ゲームオーバー」をDVDで見たことがある。付属の赤青のメガネをかけて見る。3Dを楽しめたが,色が少し薄いというか,ぼけて見えた。もっとも,映画館で見ると,もっときれいに見えたのだろうが。

 3D技術には,光の波が面を持つという性質を利用する偏光方式もある。右目用と左目用の像の偏光面を変えて映し,特定の偏光面だけを通すメガネで見る方式である。この方式はアナグリフと異なり,カラーがきれいに表現されるが,アナグリフに比べて実現が難しい。映写機からスクリーンに投影し,その反射光を見る。この間の偏光面を安定させるのが簡単ではない。なによりも,顔を傾けるとメガネのフィルタと映像の偏光面が合わなくなるため,きれいに見えなくなる。

 このほか,映写する映像を右目用と左目用に切り替え,メガネもそれに合わせて右目と左目の見えるタイミングを制御するシャッター方式(時分割方式)などがある。

RGBそれぞれを波長で使い分ける

 今回見たDolby Japanの3Dはこれらとは異なる分光方式である。RGB(赤緑青)の光の3原色それぞれを,波長の長さで二つに分けて右目用と左目用に使い分ける方式である()。当然,波長成分が損なわれるが,その波長成分を電子的に補正する処理を施すという。この3D映像を見るには,分光フィルタ付きのメガネが必要である(写真)。

図●RGBそれぞれを右目用と左目用として波長で分割
図●RGBそれぞれを右目用と左目用として波長で分割
写真●分光フィルタ機能付きメガネ
写真●分光フィルタ機能付きメガネ

 この分光処理にはフィルタホイールを使う。円盤型のフィルタで,中心線の左右で右目用と左目用のフィルタに分かれている。これを回転させて通す波長を切り替える仕掛けである。このため,常にどちらか一方の目にしか映像が見えないことになるため,コマの切り替え(フレーム)速度を上げる。通常は1秒間に24コマのところ,144コマにし,残像効果で自然な映像にしている。

 分光方式にも弱点はある。デジタル・シネマなどの設備が必要になることである。従来のフィルム対応の映画館で3D上映はできない。日本国内のデジタル・シネマ上映館は80館。そのうち,3D対応は40館である。それでも「1年前の3倍に増えた」(Dolby Japan社長の漆山 正幸氏)という。メガネは高価であるが,痛みにくいため500回くらい再利用できるという。

3Dの普及に期待

 3Dなどの映画上映技術は,家庭のAV環境の進化とある程度の相関があるという。家庭向けのAV環境が進化すれば,映画館まで足を運んでもらおうと上映技術を向上させるというわけだ。その差別化の目玉が3Dである。家庭では地上デジタル放送の普及に伴い大画面化,高画質化が進んでいる。ホームシアター・システムやBlu-rayも映画館にとって強敵である。

 Dolby 3Dは当面,家庭では見られない。多少の不自然さは否めないし,約15分間の試写を見ただけであるが,目の疲れを感じた。それでも,映画1本まるごと3Dで見てみたいと思った。3D映画の今後に期待したい。