奥野 克仁
NTTデータ経営研究所
内部統制担当シニアコンサルタント

 海外拠点のシン・クライアント端末から国際回線を経由して日本にあるシン・クライアント・サーバーに接続し,アプリケーションを使う形態がある。いわゆるオフショア開発である。

このような“海をまたぐ”シン・クライアント化された開発ツールの利用は以前なら到底考えられなかった。国際回線の帯域の制限などにより,快適に利用するための十分なパフォーマンスが得られなかったからである。だが,ネットワーク帯域の増大や通信コストの低下,サーバー性能の向上などにより現実のものになっている。

 日本と中国の間で,約400台のシン・クライアント端末を使うのが大手生命保険会社のアフラックである(図1)。

図1●アフラックのプロフィール
図1●アフラックのプロフィール
写真はシステム開発部が入るアフラックスクエア

 アフラックは2006年,IT部門を効率化するため,従来国内ITベンダー数10社に委託していたアプリケーション保守業務の大部分を,大手ITベンダー3社へ集約することにした。この際,ベンダー3社が中国の大連と北京に構える計3拠点に保守業務を委託し,コスト削減を図ることになった。

 しかし,中国でアプリケーションの保守業務を行うに当たり大きな問題があった。当然,現地に設備が必要となるのだが,国内にある保守業務用の開発ツール群を現地へ移すと,膨大な移転コストがかかってしまう。さらに,アフラックが持つ高度なソフトウエア資産や機密情報が,中国現地で漏えいするリスクも懸念された。

 これらの問題をアフラック システム開発サポート部の鈴木篤氏(現システム開発部開発プロセス改革課長)を中心にベンダー3社を交えて議論する中,あるベンダーがSBC方式のシン・クライアントの利用を提案してきた。開発ツールを端末にインストールせず,すべてサーバー側で実行し,画面情報だけを端末へ転送する方法である(図2)。これなら端末には情報やデータが一切残らない。

図2●オフショア開発のためにアフラックが構築したシン・クライアントのシステム構成
図2●オフショア開発のためにアフラックが構築したシン・クライアントのシステム構成
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 このほか,開発ツールの各端末へのインストール作業や開発用サーバーの中国への移転といった手間も省ける。また,SBC方式であればサーバーの台数も多くはならないと考えた。

 07年初頭から,シン・クライアントを採用する日中間のアプリケーション開発・保守システムの設計を開始した。要件は,(1)操作が簡単である,(2)利用する「Eclipse」などの開発ツールをシン・クライアント・サーバー上で動かせる,(3)導入コストが極力低い──というものだった。