パソコンやネットワーク機器のほとんどは,それぞれ時計を持っている。Windowsパソコンであれば,タスク・バーに埋め込まれている時計がおなじみだ。ダブルクリックすれば,秒単位の時刻を表示してくれる。

 各機器の時計は,画面上でユーザーが時刻を確認するためだけに存在するのではない。データを処理したり送受信するときや,処理の履歴をイベント・ログとして保存するときに,時刻情報を付けるのにも使われる。このためパソコンだけでなく,ルーターやイベント・ログを残すちょっと高級なLANスイッチも時計を内蔵している。

時刻が合わないと困ったことに

 ユーザーは,パソコンやネットワーク機器の時計の正確さについて,ふだんはあまり意識していないだろう。しかし,時計の示す時刻が狂っていると,トラブルに巻き込まれることがある。

 例えばパソコンの時計の時刻が不正確なままメーラーを使っているとき。送信日時のおかしいメールが相手に届いてしまう。メーラーの中でメールが正しい日時順に並ばなくなる。

 さらにやりとりが複数のパソコンや機器にまたがるネットワークでは,それぞれの時刻の食い違いによって,トラブルや不可解なことが起こる。ネットワーク管理者が複数の機器からイベント・ログを取り出したときに,前後関係を判断するのが難しいといったことだ。

 複数機器の時刻がずれているときに影響を受けるのは,ネットワーク管理者ばかりではない。ユーザーの身に直接トラブルが降りかかることもある。

 例えばファイル・サーバーとクライアント・パソコンの時刻がずれている場合。ファイル・サーバーにファイルを新規保存すると,ファイル・サーバーの時刻がファイルの作成日時として記録される。一方,ローカルに保存してからファイル・サーバーにコピーすると,クライアント・パソコンの時刻が作成日時になる。同じファイルを保存しても,ファイルの保存先や保存のしかたによって記録される時刻が食い違ってしまう。時刻がずれていると,後からファイルを探しても見つからないといった混乱の原因になる。

 ネットワークには時刻情報がつきもの(図1)。ネットワークの中で,複数の機器の時計を正確に合わせておくことは重要なことなのだ。

図1●ネットワークには時刻情報がつきもの<br>場合によって時刻の記録方法は異なる。
図1●ネットワークには時刻情報がつきもの
場合によって時刻の記録方法は異なる。
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時刻合わせのしくみはあるが…

 パソコンやネットワーク機器が内蔵する時計は,電源が入っていないときも時刻を刻む水晶時計(リアルタイム・クロック)と,OSのソフトウエア機能として存在するシステム・クロックの二つがある。電源を入れたときにシステム・クロックをリアルタイム・クロックに合わせる。いずれの時計も徐々にずれていく。日に数秒の割合で進んだり遅れたりするものも珍しくない。

 そこで,ネットワークにつながるパソコンやネットワーク機器は,ネットワークの中で基準となる時計を持つサーバーにアクセスして,時刻を合わせる機能を備えている。基準となる時計を持つサーバーから時刻情報を取得し,自分のシステム・クロックをそれに合わせるのだ。例えばWindowsパソコンは,「Windowsタイム・サービス」という機能が時刻を合わせている。パソコンの時刻表示がいつの間にか合っていたりするのは,このためだ。

 ただし,時刻情報を正確に取得するのは意外と難しい。ネットワークで情報を送るときには遅延が発生する。このため,配信元から送信した時刻情報が取得する側に到着するときには,遅延時間の分だけずれてしまう。そのままだと時計は正確に合わせられない。

時刻を合わせて正しく使おう

 それでもWindowsタイム・サービスを使えば,時計は正確に合わせられる。裏で,ネットワークの遅延を補正して正確な時刻を取得する「NTP」という専用プロトコルが動いているからだ。続くPart1で,NTPのしくみを紹介しよう。ただし,パソコンの時計を初期設定のまま使っていたりすると,時刻が10秒単位でずれてしまうことがある。そこで,より正確に時刻を合わせるためのパソコンの設定方法も解説する。

 時刻が正確に合えば,電子書類を作成した時刻や,ネットワークで書類をやりとりした時刻を正確に把握できる。ただし,常に正確と思っていると落とし穴がある。時刻情報はねつ造したり改ざんしようと思えばできてしまうのだ。

 このようなねつ造や改ざんは,時刻を正確に合わせるだけでは防げない。でも大丈夫。書類を作成した時刻を第三者に証明してもらう,「時刻認証サービス」が存在する。条件によっては無料で利用できる。Part2では,時刻認証サービスのしくみを紹介する。