ITpro Watcherとしてもおなじみ,ブロガーでありプログラマ,投資家でもある小飼弾氏が,格差社会を生き残るためのノウハウと哲学を明かす語り下ろし。

 小飼氏は,世界有数の経済大国である日本で豊かさを実感できないのは,自分が「モノ」あつかいされているからと指摘する。モノあつかいされる仕事とは,時間あたりいくらで計算され,中国やインドにアウトソーシングされる仕事である。知的生産を担い,工夫次第いくらでも価値を生み出せる「ヒト」になれと小飼氏は呼びかける。インターネットが誰にでも安価に使用できる現在,打てる手はいくらでもある。

 そのためにはどうすればよいか。小飼氏は「あなたは『自分という会社』を経営する経営者である」と定義する。自分のバランスシートを見直そう。無駄を削減し自己投資せよ,経費以上に削減すべきは時間と小飼氏は言う。

 生み出した時間で行うべきなのは勉強だ。小飼氏は読書は最強の自己投資であり,本の内容をブログにアウトプットすることでブログは最強の勉強ツールになると指摘する。伸びる社員と伸びない社員の違いは何か。オン・ザ・エッヂのCTO時代の経験から,それは学習意欲であると小飼氏は弾言する。伸びた社員は忙しくとも勉強会に参加していた。

 そして人間関係ネットワークのハブになること,自分の勝てるゲームのルールを作ることが勝者になる方法だと小飼氏は言う。自分の強みを生かせるゲームを作れば勝者になれる。オランダの学生Yde van Deutekom氏は,寝ることが誰よりも好きなので,自分の寝姿を映すサイトを作り広告収入を得ている。重要なのは自分が勝てると同時に,参加者が喜んで参加できるゲームを考えること。これからは,考えることとはそのことを指すようになると小飼氏は予想する。60億のゲームを考えよう。そうすれば地球上のすべての人間が勝者になれる。

 小飼氏は,しょせん「モノ」は世界からの借り物であり,「モノ」への執着はヒトを惑わせると喝破する。死んだら世界に返すほうがシンプルで良い。この考え方を突き詰めていくと「ベーシック・インカム」にたどり着く。ベーシック・インカムとは,生活保護のように支給するかしないか0か1かではなく,全国民に一定の収入を保証して,一定額以下の人に足りない金額を支給するもの。ベーシック・インカムが保証されていれば将来への不安がなくなり,消費や起業が盛んになり社会が豊かになる。そしてその財源は,相続税を100%にして充てるべきと小飼氏は提言する。

 サブプライムローンを火種とする世界的な株価の急落や金融機関の破綻など,カネが暴走している。しかし,自分で作れないものをカネで買えることが多くの人を幸せにしてきたことは間違いない。小飼氏は,かつて「カネ≒モノ」だったが,世界は「カネ≒ヒト」へと向かっていると指摘する。モノは簡単に増やせないが,ヒトのイマジネーションは簡単に増える。「新しいカネの法則」を見つけることが読者と自分の宿題であると小飼氏は本書を結ぶ。

弾言 成功する人生とバランスシートの使い方
弾言 成功する人生とバランスシートの使い方
小飼 弾/山路 達也著
アスペクト発行
1500円(税込)