東レは10年以上前から「情報システム白書」を作成している。システムを開発し,運用し,改修してきたすべてが記録されている。その狙いと内容を紹介する。

白書の表紙
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白書の目次1<br>「第1部 概要編」では定性的な情報を記載する
白書の目次1
「第1部 概要編」では定性的な情報を記載する
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 東レの情報システム部担当者にとって,4月から6月は慌ただしい時期である。毎年恒例の「情報システム白書」の執筆作業に入るからだ。白書には,直前の1年間に自分たちが実施してきたことを記録する。分量はA4サイズで200ページ弱に上る。

 白書を作る狙いは二つある。

 一つは,ユーザー部門の人たちに自分たちの活動をよく知ってもらうこと。これを読むと「今動いているシステムがどういう考え方で開発され,何ができるようになったのか」「システム化の次のステップをどう考えればよいのか」をユーザー部門の人たちに理解してもらえる。次のシステム開発企画への期待感を高めてもらうのが狙いだ。これがあることで,ユーザー部門とのコミュニケーションはかなりよくなっているという。

 もう一つは,自社の情報システムがどうなっているかを,情報システム部門として把握すること。白書を作るという作業を通じて,担当者が1年間の自分の仕事を振り返る。携わったプロジェクトの目的が何だったのか,問題や課題にどう対処したのかを追体験することになる。また,新たな案件の相談や改修の打ち合わせに行く場合,白書があれば,例えばある工場で生産管理システムを導入しようとするときに,昨年別の工場で導入したときに実施したこと,問題になったこと,工夫したことがすぐに分かるという効用もある。


全体は2部構成

白書の目次2<br>「第2部 詳細資料編」では定量的な情報を記載する
白書の目次2
「第2部 詳細資料編」では定量的な情報を記載する
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 白書は「概要編」と「詳細資料編」の2部で構成する。それぞれ100ページ近いボリュームがある。

 概要編には,1年間に実施した作業のトピックスを書く。2005年度版を見ると「社長年頭ご挨拶のライブ放映」「ウイルス感染と対策」「東京本社IP電話化」といった項目が並んでいる。これを見ると,現場が何をしてきたか,何が課題だったか,どんな効果があったかが分かる。ユーザー部門とのコミュニケーションに利用するのは主にこちらだ。

 詳細資料編は,データ集である。リソースの使用率やエンドユーザーのアクセス数といった統計情報のほか,ハードウエア設備やソフトウエア資産も記載する。ここに掲載する情報は経年変化など継続的に見る必要があるため,年により項目はあまり変えない。概要編と詳細資料編は1対1で対応しているわけではないし,その必要もない。ここからは情報システムの現状が一目瞭然である。ほとんどは情報システム部門の担当者が利用する。

年に1回発行

 実際に白書を作成するのは,概要編の方は現場のリーダー・クラスが多い。詳細資料編は担当者が主にデータを集めて整理する。データはログを取得しないと集められないものもあるため,あらかじめどんなデータが必要かを洗い出しておき,そのデータを取得できる仕組みを作っておく。以上を含め,総勢20人くらいが白書の製作にかかわる。

 その年に何を書くかは4月上旬に決定する。同時に担当者をアサインする。ただ4月は一般に,3月末に稼働開始したシステムのバグ修正に追われることが多いため,実際に執筆に入るのは大型連休前後。5月いっぱいをかけて執筆と推敲を繰り返し,6月1日に発行する。

 発行した白書は情報システム部門担当者が持つほか,社内の各部門に配布される。各ユーザー部門の長や関係会社,システムセンターを含め数十部を配布する。

白書の三つのルール

プロジェクトの例1<br>社長年頭ご挨拶のライブ放映と「とれなび」での全社配信
プロジェクトの例1
社長年頭ご挨拶のライブ放映と「とれなび」での全社配信
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プロジェクトの例2<br>コンピュータウイルス感染と対策
プロジェクトの例2
コンピュータウイルス感染と対策
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 白書の書き方には三つのルールがある。担当者の頭の整理と,読みやすさを考えてのことだ。

ルール(1)1テーマを1ページに書く

 一つのトピックは,A4サイズ1枚に収まるように書く。トピック一つを伝えるのに何ページも費やしては読む方が面倒だと感じてしまうからだ。

ルール(2)それまでとそのときを書く

 まず,プロジェクトが始まるまではどうだったかを整理する。その上で,プロジェクトではどういう意図で何をどうしたのかを書く。さらに今後の課題を書く。

ルール(3)図解を多用する

 システム構成図やネットワーク構成図はもちろん,写真やイメージ図などビジュアルで訴えかける素材をたくさん掲載する。

 決められているのはこれだけで,後は担当者の裁量に任される。項目の立て方も基本的には自由。どんな図を掲載するかも指定はない。

 「社長年頭ご挨拶のライブ放映」を見ると,今後の対応として「演出の充実や双方向通信の検討」が挙げられており,簡単だが他社事例の紹介もある。「ウイルス感染と対策」では,実施したセキュリティ規準改定のポイント6項目を個条書きで分かりやすく並べている。

エグゼクティブサマリーを追加

プロジェクトの例3<br>東京本社IP電話化
プロジェクトの例3
東京本社IP電話化
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 2002年からは,概要編と詳細資料編に加えて「エグゼクティブサマリー」と呼ぶ簡易版を新たに作るようになった。これは,主に経営層向けの白書である。内容は,概要編と詳細資料編から抜粋したサマリーだ。A4サイズで5枚程度にまとめ,数十部を配布する。

 特に経営層は,分かりやすく書いても分厚い白書をなかなか読んでくれない。また情報システムの中身は目に見えないだけに直感的に分かりにくく,かつ専門用語も多いために敬遠されがちだ。どこまで進捗したのかも分かりにくいし,品質が良いのか悪いのかも説明するのが難しい。そこで,全体の分量を大きく絞り込み,図解をページの半分程度にまで増やした簡易版を配布している。